多重結婚

　でも今日は楽しい快気祝いだ。四人掛けのテーブルを三つ合わせた端っこに座っておしぼりで手を拭いた。会社は十人の人がいるからこの居酒屋はほとんど貸し切り状態だ。カウンターに個人のお客さんが座れるくらいしか空きがない。

「とんでもない法律が出来たな」

　気が付いたら山辺さんが隣に立っていた。山辺さんは着替えていなくネクタイだけ外している。ブルーのストライプのシャツに濃紺のスラックス。マジかっこいい。いや、これは瑠々がそう思っているだけで世間一般では普通の男性だ。３０代のどこにでもいるおじさん。

　テレビでは尚も総務省のお偉いさんが喋っている。

「この法律が施行されれば太った方が偏見を持たれることが少なくなると思います。なぜならば痩せている人より多く税金を払っているわけですから、それに体重が８０キロ以上ある女性の方は税金を多く収めるということで特別に多重結婚出来るという権利を得ることが出来る方向に決まりました。これは太った方の税の負担が高くなるので家庭の財産を守る意味合いを含めています。それに太った方は食費がかかりますので収入源を増やすという意味でも多重結婚を出来るよう本会議で決まりました」

　瑠々は驚いた。８０キロ以上になれば多重結婚をしてもいいんだ。瑠々は７５キロ。８０キロになるのは簡単だろう。でも今まで付き合った人もいないのに複数の男性と結婚するだなんて考えられない。