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会社からの帰り道。 やけに空が明るくて、見上げたら満月だった。 黄色くて、まんまる。 遠くて近い天体。 海の満ち引きにまで、影響する惑星。 電車に揺られている間も、駅からの道も、満月はずっとついて来る。 まぁるい形は、私の身体の中にある卵を思い起こさせる。女性のお腹の中で、月に1回吐き出される、小さな小さな卵。 でも、その度に来る苦痛も思い起こす。 薬でコントロールしている、私のホルモン。排卵や生理や妊娠までも、自然に任せておけない体。 排卵を抑える為に、毎日の飲む薬がないと、私は月に一度、日常生活にも支障が出てしまう。 29歳。 自分を包み込む大きな波が去っていった。 その引き波にさらわれないように、しがみついている20代後半の私の身体。
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