Bon-Que-Bon!!!

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7月8日、午前2時。私は頭を抱えた。 はじめはほんの出来心だったのだ。乙女の純粋な願い、背伸びした少女のいじらしい欲望。そう大層な願いではなかった、おそらくは同時刻、同年代、同じ事を降っていく星に願った同志は数多いるだろう。まさか・・・まさか。 「Iカップになるなんて思うわけないでしょ・・・」 七夕の夜、私は家族と共に夜空を見上げていた。7日にちょうど、この10年で最大規模の流星群が観測出来るとかで、物珍しさに全員家を出て星を見ていたのだ。もう随分童話のメルヘンな世界からは離れて時間が経っていたが、母がふと呟いた。 「七夕の日に流星群なんて、1個はお願いが叶ってもおかしくないわね!」 冗談めかして言ったのだろう、私も鼻で小さく笑った。でも、なんとなく願いという言葉に引っかかりを感じる自分がいた。 私は、胸があまり大きくない事がコンプレックスだった。教室を見渡して、小さい方から一桁に入るくらいの感じだろう。クラス平均がそもそも結構高く、制服越しに見てもお山がはっきり見て取れる子が多い中で、その事実は私を日々憂鬱にさせた。朝学校に着いた時から既に、序列で負けを認めさせられる様な気がするから。 せめて、せめて平均、いや平均に少し足りなくても構わない。消極的に目立つ現状を変えて欲しい。日々嫌にも考えさせられる邪念が、この夜再び私にまとわりついた。迷信にもすがりたい様な気分だったのだろう、目を瞑ってヤケクソで胸の内に呟いた。 巨乳になれ巨乳になれ巨乳になれ! 「あっ、見て見て一個流れた!」 えっ、そんなタイミングよく?せっかくの流れ星だったのに、目を瞑るんじゃなかった、と私は軽く後悔をした。その後はいくら待っても見れなかったので、私達は飽きてしまってそれぞれのナイトルーティンに戻った。 私もいつも通り明日の用意をしていたのだが、この時からなんとなしに脇の下あたりに違和感を感じていた。おかしいな、いつもと同じ下着なのに、この時はそのくらいにしか考えていなかった。ベッドに入ってすっかり眠っていたはずが、急にハッキリと目が覚めてしまった。と同時に、仰向けに寝ていた私は胸にとんでもなく重いダンベルか何かが落ちていると錯覚した。勢い良く布団を蹴飛ばして、最初に戻る。 私は慌てた。もう、面白いくらい慌てた。いや確かに私が願った事だよ?でもこんな砲丸が欲しかったとは一言も言ってなくね?どうなってんだよ織嬢と彦公! ひとしきりドタバタしてから、私はベッドにへたり込んで悲嘆に暮れた。どうやって明日から生きていけばいい?さらしで潰そうが絶対丘よりもなだらかにはならないだろう。最初は周りが面白がって、「何詰め物してんだよウケる🤣」みたいな感じになるだろうけど、体育とかで着替えがあったら隠し通せない。「えっ、あんた豊胸したの・・・?マジで・・・?😨」ってなるだろ。それ以外でこの状態に至る途中式は通常頭に浮かばない。どうやって説明するんだよこの状況。ってか信じてもらえるワケあるか! ・・・しかし、Iカップ補正はついているのだろうが、こんなにも乳が重いものとは思っていなかった。ハッキリ言って舐めてた。いやらしい意味じゃなく。米袋抱いて生きてる様なもんだよ、ってクラス1の乳姫が言うのを聞いていて、「大袈裟なんだよ、嫌味か?」とイラッとしてた。そのフワフワもちもちが米袋より重いワケないだろ? しかし、今ならわかる。ガチだ。視線を下に落とす。真下が見えない。これでは足元も見えないだろう、階段降りる時足元見えなかったら死ぬ。いつも軽快に階段を降りていく自分に対し、友達たちがのろのろぐだぐだと降りてた理由も今ならちょっと分かるかもしれない。まあそいつらがおしゃべりなのもあると思うんだけど。 ちょっとベッド傍に立ってみる。ぅゎぉっpぃぉもぃ。バランスを崩しかける。うわーこれ猫背なるわ。ずっと前に引っ張られ続けてる気分。こんなのでずっと歩ける気がしない。腰が壊れそう。っていうか乳首痛い。すごいパジャマに擦れる。いつもなら余裕のある胸元がパンパンになってるからか。いつもよりすごく気になる、これもIカップのせい? よくこんなもん持って生活できるな!改めて気づく。これで走ったらどうなるだろう。クーパー靭帯なんか一瞬で持ってかれて、運が悪ければ皮膚が裂けちゃってそっくりこの胸千切れちゃうかも。突然胸から片側1.5kgはあろうかという重りをぶら下げることになってしまった私に、どんどんとネガティブイメージが更にぶら下がって来る。あんなに望んでいた胸なのに。 私は再びベッドに身を放り、自分の軽率さを呪った。こんなものあったってなんの得にもならない!ジロジロ見られ、勝手に羨望されからかわれ、自分にはただただ物理的にも精神的にも負担が掛かるばかり。 「どうしよう・・・」 3kg+αの重圧を抱えたまま、私は闇の中に迷い込んでしまった。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ピピピッ、ピピピッ。 目覚ましがうるさい。朝か・・・。 いつの間にか寝てしまっていた様だ。散々腕の中の慣れない感触を持て余し、右でもなく左でもなくベッドを泳ぐうちに疲れ果ててしまったか。汗に濡れたパジャマが冷たい。寝返りを打つたびに谷間や下乳の間から汗がこぼれ出てくるのには本当に参り果てた。朝から既に体クサクサガール確定。 鬱だ。もうこのまま起きないでいようか。というか胸の重みで起き上がれないだろ。うつ伏せの今この砲丸を持ち上げる元気・・・も・・・? あれ。お腹に地面を感じる。ちゃんと真っ直ぐ寝てる。 スッと起き上がる。上体が軽い。胸に手をあてがう。丸みは随分と失われ、すっきりとしていた。夢・・・?いや、感触が嫌にリアルだった。スイカップの触感や重みは神経を通じ確かにハッキリと感じたはず、なのだが。頭が痛い。眠りが浅かったからだろうか。と言う事はやはりレム睡眠、脳が上手に見せた幻影だったのか。 まぁでも。 「よかった〜」。何はともあれ、ありがとう私の可愛くて慎ましいお胸さん。お前が最高だ! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「でもさぁ、この仕事も趣味悪いよね〜、人の願いを叶えさせてギャップを見せるって言うのもさ」 「いや、むしろ人類にないものねだりの愚かさを伝えている崇高な仕事さ。結局は持ち合わせの自分が一番だって最後には全員言うじゃないか」 「結局、多すぎも少なすぎも毒だ、ってこと?」 「だな。今の状態がちょうど良い、くらいなものの方が世の中多いのかも知れん」 「んじゃ何?私たちも1年に2回以上会ったらウンザリするかもって事?」 「・・・そんなこと言ってないだろ」 「何今の変な間!明らかに言い澱んだよね!?」 「あー、時間切れだ。んじゃまた来年な」 「おいコラー!彦公お前ちゃんと説明しろー!」
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