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発見
「やば〜い」
ミッツが、あたしたちだけに聞こえるように言った。あたしとほののんがミッツの方に振り返る。
ミッツは、あたしたちを見ながら、横断歩道の向こう側を指さしていた。本当は見たいのにガマンして、でもやっぱり気になるのか、チラチラとそっちを見ている。そのしぐさを見て、あたし達は、こっそり見なきゃいけないことが起こっていると理解した。
あたしとほののんは、信号を確認するフリをして、ミッツが指さしたところを見た。
笑いそうになっちゃった。でも、そんな事したら絶対にバレる。顔中に力を入れて、元の位置に顔を戻す。でも、ミッツと目が合ったら、やっぱり笑っちゃった。しかたがない。ミッツだけじゃなく、ほののんまで笑っちゃってるんだもの。つられちゃうって。
頑張って大声で笑らないようにした。
そしてあたしは、2人の影に隠れるように、横断歩道の向こうの光景をスマホで撮った。
***
「やばかったね〜」
横断歩道から離れて、英会話教室まであと少しってところで、ミッツが笑い出した。ここなら大丈夫と思ったら、あたしもやっと大声で笑えた。
「あははっ。やばいやばい。ミッツのお菓子、まじヤバすぎでしょ」
「まずいだけじゃなかったね〜」
ほののんも、クスクス笑った。
ピロン、とあたしのスマホから通知音が鳴った。コメントがついたみたい。
「やった! さっきのお菓子実況、コメント20件もついてる!」
「いつもより早くない!? 何て言ってるの?」
はしゃぐミッツに、あたしはコメントを読み上げる。
「んっとねぇ、『気になってたけど、ゲロマズなら買うのやめようと思いました』『変顔かわいいです』」
「え〜」
ほののんが、笑いながらうつむいた。照れているのだ。
「『最後のブス、受けました』『デブス、踏んづけちゃってかわいそうw』『ハプニング落ち、ウケるww』」
「あ〜。あれね、ホントやばかったよね」
思い出して、あたし達はまた笑った。
ミッツがたまに買ってくる新作のお菓子。英会話教室へ行く途中、こっそり食べて味のレビューをする。文字を打つのがだるいから、あたしがやっているSNSにレビュー動画を上げている。
見ているのは、アカウントを持っているクラスメイトと英会話教室とかバレエで仲良くなった子達だけ。顔にはちゃんとスタンプを付けて。
そして、今日、ミッツが持ってきた新作のキャンディーガムは、激まずだった。キャンディーは甘いのに、溶けてガムになった途端、酸っぱくて苦くなってしまったのだ。
あんまりにもまずすぎて、食べている途中で捨てることにした。
ところが、ほののんが吐き出したキャンディーガムは、ティッシュじゃなくてアスファルトに着地しちゃったの。
恥ずかしそうにしているほののんに気をつかって、あたし達はすぐにそこから歩き出した。
見ないように見ないようにしていたら、ミッツが振り返った。
横断歩道の向こうには、黒スーツにダサい黒フレームの眼鏡をかけた女。最初、その女は無表情で歩いていた。でも、急に足を変な風にガクン、と曲げた。女がヘンテコなポーズになったタイミングで、ミッツはあたしたちに「やばい」と教えてくれた。
ダサデブ女は、潰れたアンパンみたいに顔を歪ませて、自分が履いているパンプスを見下ろした。そして、街中であるにもかかわらず、片足を脱いだのだ!
片足ケンケン状態で、ひどい顔で、女はパンプスにこびりついたものを見ていた。ほののんが落としてしまった、キャンディーガム!
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