拡散

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拡散

 きっと、昨日あたし達にいたずらされたと勘違いしたデブスが、親戚デブスのサンビに「この子達知らない?」と訊いたのだ。あたし達にからかわれ、男子にもからかわれているサンビは「復讐してやりたい相手なんだ」とか、言ったのかもしれない。  サンビの親戚なら、そいつもきっと貧乏のデブスだ。だから、大人と2人がかりで、チマチマ新聞を切り抜いてチラシを作った。  あたし達に見られていることも気付かず、サンビは太陽の方を向いて目を閉じている。  そこへ、男子が笑いながらやってきた。 「おーいサンビ〜、お前はいくら光合成しても腹は膨れないぜ〜?」  サンビの眉間にシワが寄る。でも目を開けない。きっとこれは、サンビなりの無視だ。 「サンビ〜? サンビちゃ〜ん? カメみたいな寝方しても、お前はカメになれないよ〜?」 「だって豚だもーん! ブヒー!」  続いてやってきた男子も加わって、サンビを囲んで笑う。  あたしとミッツも、参加することにした。サンビが目を開けることを言った人が勝ち。 「ちょっとー、気持ち良くお昼寝しているんだから放っておきなさいよ」 「サンビはね、家がオンボロ小屋だから、あったかい教室で寝るしかないの」 「雨漏りも直ってないくらいなのよ!」 「そんな家、住めんのかよ!」 「サンビなら住めるんだよ。ブヒー!」  男子の一声で、サンビが目を開けた。ちえっ、結構いいところまで行けたと思ったんだけどな。  顔を真っ赤にしたサンビは、ますます動物みたいで、あたしとミッツでひたすらに「かーわーいーいー」と連呼しておいた。先生が来るギリギリまで褒め続けてあげたのに、サンビは俯いてばかりで、お礼の言葉もなかった。  何にも言えないサンビから離れるとき、あたしはちょっとスッキリした。  だから、次の日も掲示板にポスターが貼られているなんて、思いもしなかった。 「なにこれ!?」  今度は、3枚の写真。  自転車で転んだおばあちゃんを、笑いながら撮影しているあたし。  ほののんが、店内にいる人を撮影しているような写真。  ミッツが、サンビに足をかけて転ばせている写真。 『この3人は、意地悪をします。気をつけて』  同じ内容の画像が、SNSにも投稿された。今度は写真じゃない。音声付き。  ほののんが隠し撮りしていたのは、変装してお店に来ていた芸能人だった。 「なんと、プロデューサーも一緒に来ているそうです。枕営業に、これから行くのかな?」  ミッツがサンビに笑いながら悪口を言うところ、あたしが大笑いしているところが、バッチリ再生できるようになっていた。  この動画を教えてくれたのは、バレエ教室の子だ。 「夢都美ちゃん達の動画、変な風にばら撒かれているよ」  あたし達が通っている学校、学年、習い事の教室とかが、毎日、いろんな動画と一緒に投稿されていく。  同じ人じゃない。毎日、違うアカウントから投稿される。  でももう、そのSNSでは、あたし達の名前を検索するだけで、動画やあたし達の個人情報が簡単に見つけられてしまう。 ***  あたし達は被害者なのに、親にも先生にも怒られた。  サンビの3つのB(デブ・ブス・貧乏)をからかっていたこと、SNSに顔出しで投稿していたこと、ハプニング動画を作って投稿したこと。  最後の1つだけは絶対にやってないって主張したのに、パパもママも信じてくれなかった。  あたし、絶対にわざとやってない。たまたま撮れちゃった他人のドジなのに。  パパもママも信じてくれないから、当然、他のみんなも信じてくれない。
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