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訳わかんない理屈で、あたし達はこんなに傷つけられたのか。
しかも、あたし達を晒し者にしたジジイとババアは、みんな死んでしまっている。
あたし達は、これからも生きなくてはいけないというのに。
***
むっちゃんこと双見夢都美が死んだ。
最後に会ってから6年が過ぎて、わたしはそろそろ成人になる。むっちゃんは、成人した誕生日に死んだそうだ。自宅の、階段から足を滑らせて。
最後に会った時、むっちゃんは既に太っていた。散々馬鹿にしていたサンビに似てきた自分を恥じていたのか、わたし達とは目も合わせず、ずっと俯いていた。
いつか芸能人になるんだ、と夢見ていて、それを実現できそうだったむっちゃんの面影は、なくなっていた。
わたしがそれを知らされたのは、彼女の49日もとっくに終わってしまった時だった。
「八木沼さんとこみたいに、葬儀に行かれたら困るのよ……」
どうやら、ミッツはむっちゃんのお葬式に行こうとしたらしい。
そして、手ひどく追い返された。その様子を、わたしは偶然見てしまった。
何度か転校を繰り返した、教室で。
「ね〜、見てみて! 特選・芸術的な転び方!!」
ハプニング映像をまとめたその動画が映し出されたスマホ。そこに映る転倒するミッツ。塩を投げつけられる。
「やだ〜! 姫がこっち見てるぅ」
「あ、すみません! 姫の目に下品なものうつしちゃいましたね!」
スマホを持っていた子と見せられていた子が、わたしの視線に気づき、大袈裟に身をくねらせた。
「ごめんなさい、見るつもりじゃ」
「ええ〜、なんですかぁ姫〜?」
「声が小さくてぇ〜、聞こえないでぇ〜す」
「あ、あの、だから……」
わたしが何か言うたびに、2人がさらに大きな声で被せてくる。どんどん教室中の視線が集まる。
嫌だ。注目されている。嫌だ。いや。
「か、勝手に見てごめんなひゃいっ!!」
やっと、2人に負けないくらいの大声で謝れた。
けれど、今度は教室がシーンと静まり返ってしまった。
「やだ〜、姫ってば噛んじゃってる〜」
『勝手に見てごめんなひゃいっ!!』『ご、ごめんな』『ひゃい!!』『ひゃい!!』
「新作・姫のごめんなさいラップゲットー!」
スマホに撮られたわたしが、加工されていく。
青ざめていくわたしを、2人はニヤニヤして見た。
「大丈夫だよ、投稿なんかしないから」
「そうそう。……あんたのこと投稿したら、訴えられちゃうもん」
耐えきれなくなって、わたしは教室を飛び出した。この姿は、どうか撮影されてませんように、と祈りながら。
地方のほうが、むしろ頻繁にスマホをいじっている子が多い。
都会よりはマシだと思っていたのに、とんだ選択ミスだ。
今すぐに、わたしのことを調べられない土地へ行きたい。
そして、ずっとそこで暮らしたい。
いいなあ、むっちゃんは。
いち抜けだもんね。
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