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願い
BGM With or Without You / U2
あのウイルスのせいで
病棟もなんとなく
ピリついた
アリサの配信だけが
楽しみだった
初夏に地方局の
ラジオ出演が決まり
階段を登り始めたアリサに
みな歓喜した
順調なステップとともに
配信回数は減っていく
メディアへの露出が
増えれば増えるほどに
愛する者が世界に
認知されていく
よろこびと
離れていくさみしさで
焦がれる心
アンビバレントな
感情は若かった頃の
甘酸っぱさを
感じる
年が明け
3度目の入院をした
店も畳んだ
春はもうすぐそこまで…
彼女が久しぶりの
配信で告げた
ついにライブをやります
胸が踊った
衝動が衝きあげる
ベッドからステーションへ
向かい
看護師にドクターと
話したいと告げた
回診を終えた後に
話す事になった
外泊したいんです
自分より遥かに若い
白衣の男に敬語を使う
これが最後です
白衣の男は小首をかしげ
私を見つめる
もう時間は
無いんでしょう?
白衣の男の
顔が歪む
白衣の男が言う
無理はしないで下さい
約束してくれますね?
僕は黙ったまま
頭を下げる
もう一つだけ
何ですか?
白衣の男は
怪訝そうに問う
酒を飲みたいんです
一杯だけ
白衣の男は
泣き笑いのような顔で
どうしても?と
はい
短く返事をした
泣き笑いのまま
白衣の男は告げる
一杯だけですよ
ありがとうございます
両膝に手を置いたまま
素直に頭を下げた
約束をした
リスナーみんなで
祝盃をあげようと
画面の中の虚ろな
約束を
僕は守りたかった
もしかしたら
ポチも来るんじゃ
ないかと
ジンライムを奢って
やるんだ
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