あと5分だけ、ギュッと……

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あと5分だけ、ギュッと……

 空港。 「あと5分……、あと5分だけ、私をギュッと抱きしめてッ!」  僕は、彼女を、見送りに来ていた。  あと5分。  あと5分すると、彼女は、搭乗口へ向かう。  彼女は、海外の大学へと、旅立って行く……。  僕たちは、しばらく、会えなくなる……。  彼女のことを、ギュッと抱きしめることさえ、出来なくなってしまう……。  ー 大切な5分 ー  僕は、人目もはばからず、まるで、恋愛ドラマのワンシーンのように、彼女を、ギュッと、抱きしめたッ!  らッ!  急にッ!  め~~~っちゃ、うんこしたなって来たぁぁぁ~~~ッッッ!!! 「ごめん!」 「えっ?!」  あくまでも、彼女に気づかれないように、 「俺、別れがつらくなって来たッ!」 「えっ?!」  お名残惜(おなごりお)しさを演出しつつ、 「向こうで頑張ってねッ!」 「う、うんッ!」  僕は、抱きしめていた彼女を両手で()がし、彼女を見つめ、  ー キス♪ ー  ……ぐらいしたかったが、  ギュルルッッッ!!! 「お、うッッッ!!!」  あかんッ!   一刻の猶予もないやつやッ!  僕は、彼女を10秒も抱きしめることなく、彼女に背を向けた。 「君に、泣き顔は見せたくないんだ……」  と、右腕で、涙を(ぬぐ)っているかのように冷や汗を(ぬぐ)い、肩をしらじらしく揺らし、ときどき、バレそうな嗚咽(おえつ)を挟んだ。  そして、一歩、二歩……、三歩、四歩と、ゆっくり、彼女から離れ、五歩目から八歩目にかけて、ケツの穴をキュッと()めつつ、  そぉ~~~っと……、  スゥ~~~っと……、  ほそぉ~~~……く、  ながぁ~~~……く、  ゆぅ~~~~っくり……、  屁を、小出しにしながら、迫り来る便意を散らかした。  便意の波が少し弱まったッ!  今だッ!   今しかないッ!  僕は、まるで、「遠く離れていても、いつも、君を思っているからねッ!」……的な、後ろ姿を(かも)し出しつつ、泣きながら走り去って行くよ~~~なフリをしながら、とにかく、トイレへ駆け込んだッ! 「フゥ~~~、助かったぁ~~~ッッッ!!! 座る以前に、もう既に、ケツの穴から、半分『顔』出とったがな~~~。あ~、危なかったぁぁぁ~~~……」  僕の頭の中は、彼女のことより、トイレに間に合った安堵感(あんどかん)でいっぱいだった♪ 「神様、ありがと~~~ッッッ!!!」  神様に感謝をしながら、トイレの『紙』様でお尻を()かせて頂いた。  僕は、大仕事を終えた勇者のように立ち上がり、パンツとジーンズを、ずり上げた。  普段、僕は、あまり過去を振り返るタイプではない。だけど、何となく、無意識に振り返っていた。  一刻を争う(きび)しい戦いの後の、(ふぅ)っとい立派な一本ぐそを眺めながら、「彼女に悪いことしちゃったなぁ~……」、という思いと一緒に、水に流した。  男子トイレを出ると、 「えッ?!」  何とッ?!  隣の女子トイレから、ちょうど、彼女も出て来たところだったッ! 「えッ?! 何でッ?!」 「私も、あなたにギュッとされた瞬間、モ~~~レツに、うんこッ! したくなっちゃって♪ 一回も振り返らないあなたの後ろを、背後霊のように、ピッタリくっついて来ちゃったの♪」 「そ……、そうだったの。アハハ……」 「ニャハハ♪ だから、あなたが、そぉ~~~っと……、スゥ~~~っと……、ほそぉ~~~……く、ながぁ~~~……く、ゆぅ~~~~っくり……、屁を、小出しにしながら、迫り来る便意を散らかしていたのも、全部、()がされちゃったわよッ!」 「アハハ……、バレてたかッ! 恥ずかちぃ~ッ♪ で、君は?」 「うん、ドデカイうんこ、スッキリ出たわよ♪」 「そっか~♪ そりゃ~、日本に大きな置き土産だったね~♪ アハハ……」 「そだね~♪ ニャハハ♪」 「うんこおみくじとしては、ドデカイうんこだけに、『ドデカイ運』だね♪」 「ニャハハ、そだね~♪ 開運ッ! 開運ッ!」 「こりゃ~、海外で、『ドデカイ運』に、恵まれそだね~♪」 「そだね~♪ そうなりますように~♪ 恵まれなかったら、留学前に、空港で『ドデカイ運』を(つか)まずに、流して来ちゃったからな~ってことで、よろしく~♪ ニャハハ~♪」 「……って、上手いこと言ってる場合じゃないよッ! 搭乗口へ急がないとッ!」 「あッ! そだね~ッ!」  僕たちは、トイレに駆け込む勢いそのままに、搭乗口へと急いだッ!  彼女の海外留学、『ドデカイ運』、に恵まれますように……♪  合掌♪
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