そよ風の中のヤツら(ショートショート)

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 とても心地良い風が吹く午後だった。 『ウーン……今日も、いい天気だな……。おー、二枚目の登場だ』 『二枚目なんですか? ボク』 『だってオマエは、二枚目だろう』 『まー、それなら嬉しいですね……』  二枚目は、照れ笑いした。  そこからは、悠然とした東京スカイツリーが、バッチリ見えている。 『ところで二枚目、最近A子とはどうなんだ?』 『えっ、どういう意味ですか?』 『しらばっくれるなよ、この二枚目が!』 『まぁ……とりあえずは、いい感じですかね……。週に二日は一緒にいますから』  二枚目は、少し自慢げに答えた。  ここはマンションの5階だった。 『それならいいんだが……』 『えっ、なんです? その言い方は』 『いやぁ……なんかさ、A子に男の噂話(うわさ)があってさ』 『えっ、どこの男ですか?!』  二枚目は、不安そうに相手を見た。  サッシの戸が開いた。 「あと5分……位かな……」  A子の声がしてから……  次のヤツが、やってきた。 『おぅ、いいところに三枚目が来たよ』 『なんだ、ご挨拶だな。確かにオレは三枚目だ。誰か、オレの噂話(うわさ)、してたのかい?』 『いやー、相変わらず、君のそのガラ、ユニークだなぁ……と思ってさ』 『ナニ言ってんだ! そっちこそ、その派手なピンク、何とかしろよ!』 『ナニ言ってんだ! これは特別のピンクなんだよ! まぁ、そんな事はどうでもいいや』  二枚目は、いやな雰囲気を感じていた。 『このあいだ聞いた、A子の男の件なんだが……』  すると三枚目が、少し身を乗り出す感じになって、 『あー……あの件か……。あれはなぁ……確か……』 『そう、その事をさ、この二枚目に話してやってほしいんだ』 『えっ、えっ、えっ?』  二枚目は、かなり興奮している感じだった。  すると三枚目が、チラッと二枚目を見て、 『そうそう、一週間前だったな……。めずらしくA子と一緒だったんだ』 『ほぅ……』 『……』 『その時さ、A子がいきなり男から告げられたんだ』 『それで、A子は何と?』  二枚目は、さらに興奮気味で()いた。 『ん……黙ったままだったけどさ……まんざらでも、なさそうだったなぁ』 『えー……そんな……』  二枚目は、かなり動揺していた。 『まぁ、そんなに落ち込むなよ。まだ決まった訳じゃないしさ』 『あっ、思い出した!』 『おっ三枚目、どうした?』 『その時、また会う約束をしてたよ!』 『多分、そこで返事をするんだろう。どうする二枚目』 『どうするったって……ボクとしては……ボクとしては……』  その日の夕方ちかく、A子はベランダに立った。  相変わらず、悠然と美しい東京スカイツリーを眺めてから、一枚目に干されたピンクのスキャンティを取り込んだ。 『そうか……きょうは勝負のピンクってことか……』  三枚目に干されたイチゴ柄のパンティが、目で追いながら、つぶやいた。  すると二枚目に干された花柄のパンティが、 『あと5分……待てば……きっと……』  しかし、その後はずっと、そよ風が吹いているだけだった。  ――おしまい――
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