五分後に入ってくる男

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 つい最近までは他所の県の出来事だと他人事だった。しかし先週、系列店からあの男が現れたと連絡が入ったのだ。  それからは毎日のように同業者からの噂や被害状況が流れてきた。俺が働くこのスーパーの経営陣は男の来訪に舞い上がった。反対にパートやアルバイトを含む従業員のテンションはだだ下がり。 「あと五分ですね……」  隣の女性が呟く。彼女はちょっと気が弱いから、バーゲンセール後にくるであろうクレームの対応をさせるのはまずいかもしれない。  ただでさえ人手不足なのに、もし辞められたらさらに忙しくなって過労で倒れるだろう。なんとか俺がカバーできれば良いが。 「問題が起きたらすぐに言ってくれよ。助けに行くから」  頼れる先輩ぶる。 「ふふっ、はい!」  あまり慣れないことするもんじゃないな。恥ずかしさで顔が熱くなる。  先頭の客がジリジリと距離を詰めてくる。これだけならセールをやってない日でも見られるいつもの光景だが、今日はバーゲンセール荒らしが恐ろしい。正確にはあの男そのものじゃなくて、客のクレームが怖いのだが。  店のドアを開ける人が入口へ向かう。  ついに戦いが始まる。  俺は背筋を伸ばして何者にも屈しないぞと、気持ちを奮い立たせた。  ドアが開け放たれ、猛獣のような人間が大挙として店内に押し寄せてきた。
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