青紫の章5

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青紫の章5

そう言いながら、自身の既に硬くなったものを布越しに押しつけてくる。 「う、嘘ーー」 「お前を見ているだけで、こんなになってしまった。寝顔を見ながら抱きしめているだけで我慢していたんだ。もう少しご褒美を貰ってもいいだろう?」  そう言いながらも、葵の太腿に指を這わせるフェイロンに、葵はふと思いついたことを口にした。 「俺はもう冷たい鱗じゃないのに、抱いてても気持ち悪くないの?」 「なんだって?」 「前、そう言ってた。誰かを抱きしめても温くて気持ち悪いけど、俺は鱗が冷んやりしてて気持ちいいって。俺はもう人間だから、気持ち悪く感じてしまわない?」  葵の発情期に引きずられて、フェイロンが朝議で倒れる前に話していたことだ。  意趣返し半分といった調子で口に出したが、自分でも思っていたよりずっと引っ掛かっていたのかもしれない。こんな事、番(つがい)になった次の日に話題にするなんて野暮にも程があると後悔したが、口に出してしまった以上取り消せない。  フェイロンは一瞬驚愕の表情で葵を凝視していたが、すぐに微笑むと葵の指に自らの指を絡めるようにして両手ともに力強く握りしめた。 「葵、俺の手は冷たいか?」 「ーーううん」  実際握られた手はじんわりと熱を帯びていた。フェイロンの熱がじわじわと自分まで伝わり、溶け合っていくような錯覚に陥る。 「俺が今まで相手の体温を居心地悪く感じていたのは、俺の心も身体も冷え切っていたからだ。だが、葵を前にすると俺は心も身体も燃え上がりそうな程熱くなる。ましてや、そんなに可愛い嫉妬をされてはな」  フェイロンが含み笑いしながら葵の唇を掠め取った。どうも言動がタラシくさいが、触れた唇は確かに熱く葵の心は簡単に浮上してしまう。 「俺の熱を高めるのも鎮められるのも、お前だけだ……葵ーー」  そう言ってもう一度深く口付けられる。 (やっぱり、フェイロンは狡いーー)  熱い指先が葵の身体をまさぐるのを心地よく感じながら、自らもまた熱を帯びた身体が、更に高まり溶け合う甘い悦楽身を任せた。  大分長いこと寝台に繋ぎ止められていた葵だったが、フェイロンが二回達した時点で、何やら神妙な顔で切り出した。 「怒らないで聞いて欲しいのだがーー」 「え?な、何?とりあえず、一回抜いて貰っていい?」 「実は、朱雀が客室でずっとお前が起きるのを待っている」 「え!?」     ※※※ 「本当に本当に信じられない!!ちょっと様子を見てくるって言ったきり帰って来ないからさっ。なんか嫌な予感はしたけど! 俺はここでお昼ご飯も頂いて、食後のデザートも食べて、更にお茶を6杯は飲んだよ!!」 「う、うう……ごめん……」  渋るフェイロンを尻目に慌てて支度して覚束無い足取りで客室に来てみれば、千尋は一目葵を見るなり何があったか察したらしく、先程からカンカンに怒っている。葵はひたすら恐縮するしかない。 「それは僥倖だったな。我が宮廷の厨師は粒揃いだ。さぞかし素晴らしい昼食になったであろう」 「確かに美味しかったけど……あんたに言ってるんだよ!このすっとぼけドエロ王!!あんた本当とんでもないな!!」  千尋のフェイロンに対する評価が地の底まで落ちそうになっている。葵は慌てて口を挟んだ。 「ごめんね、千尋。何か用があって待っててくれたの?」  千尋は王様が変態でアオちゃんが可哀想だよ〜とわざとらしく葵に抱きついてきたが、ふと動きが止まり、沈黙が流れる。 「千尋?」 「アオちゃん……アオちゃんさ、今、幸せーー?」  突然耳元で聞かれて驚いたが、葵はすぐに答えることが出来た。 「うん。すごく幸せだよ。千尋のおかげだ」 「そっかーー」  抱きしめられていたので、表情は見えなかったが、千尋の声音には万感の思いが込められていた。 「じゃあ、もう安心だね。俺、ちょっと旅に出るね」 「え!?何処に!?」  葵は驚いて思わず千尋の肩を掴んで顔を覗き込む。千尋は笑って答えた。 「とりあえず、朱雀を祀ってるフーユーの様子を見てから、他の国も適当に。はっきり言って霊獣の役割なんて最早この国以外ないも同然だろうけど、どうなってるのか単純に興味があるんだよね」  千尋の瞳はスッキリと澄んで迷いがない。 「俺さ、正直嬉しいんだ。元の世界では風俗で稼いでいつか適当な相手の子供を産んで育てて死んでいくって思ってたからさ。それが別に不幸だとは思ったことないけど、俺の人生ってこんなもんなのかな?って思いはずっとあって。だから漢方薬作って、人を助ける仕事についてるアオちゃんに憧れてたし正直羨ましかったよ……」 「千尋……」  まさかそんな事を思っていたとは夢にも思わなかった。寧ろ葵の方こそ、いつも明るく前向きな千尋に憧れをこえて嫉妬のような感情さえ持っていたのにーー。 「アオちゃんの事好きになって……アオちゃんは俺がいつか子供が産めるように煎じ薬作っててくれたけど、アオちゃんとの子供が産めないなら正直他に何か俺にも出来る事あるんじゃないかな?ってずっと思ってた。だからまさか本当の翼を手に入れて、色んな所に行けるなんて夢のようなんだ。人助け出来るかなんて分からないけど、とりあえずこの世界を端から端まで見てみたいって思ってる。ホンを連れてね」
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