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紫の章2
暫くグアンに抱えられながら進んでいると、
先程の広い花畑は、大きな敷地の一郭でしかない事に気づいた。
近所にある神社の鳥居の何倍もありそうな赤い門を何個も抜けると、白いタイルが敷き詰められた広場のような所にでる。
そこをグアンは大股で通り抜けて更に大きな階段を進む。シィンも後から小走りで着いてくる。
すると、今度は一面朱色の壁に、所々、金色で縁取られた立派な宮殿が現れた。
(昔、三国志の映画で観た事ある建物に似てる…。)
入口の天井と壁には、陶器で出来た金と青の美しい竜のレリーフが描かれている。
奥に進むと、またしても立派な龍の彫刻が施された金色の扉の前で厳つい顔をした門番が仁王立ちしていたが、グアンを確認すると直ぐに重い扉を開いた。
「グアン様〜どうしましょう、紫龍草、もう一輪しか残っていませんよ〜」
息を切らしながら着いてきたシィンが、困り顔でグアンに最後の一輪を差し出した。
シィンは葵が紫龍草を食べ続けられるように、
葵の咀嚼が終わると直ぐに駆け寄って紫龍草を追加してくれたのだ。
小さいのに可哀想なことをしてしまった。しかし、とても美味しくて自分の意思ではどうにもならなかったのだ。
「アォ……」
ごめんね、という気持ちを言葉にしてみようとしたが、やはり出るのはこの変な鳴き声だけだった。
「大丈夫だよ、シィン。ご苦労だったね。
お前は先に戻っていなさい。」
紫龍草を一輪受け取った、シィンに別れを告げグアンが足早に金色の扉の中に入る。
中には様々な髪と瞳の色の人間が、部屋の左右に分かれて整列していた。
鎧のようなものを着ている人もいるが、多くの人が色鮮やかな裾の長い上着を羽織って、それぞれ意匠を凝らした腰紐で縛り、白いゆったりとしたズボンを履いている。やはり古代中国の服に少し似ているようだ。
人々の目線の先には、瑠璃色の大理石で作られたような美しい玉座が置かれており、そこに座る人物を見て葵は思わず息を飲んだ。
(この人…)
肩と胸に金糸で龍の紋章が大きく描かれた紫の裾の長い上着の上からでも、脚が長いのがよく分かる。
二十代後半くらいだろうか、驚く程整った顔の額には緩くうねった黒髪がかかり、所々紫色が透けて見えた。
意志の強そうな眉に、スッキリと通った鼻筋。
何より、見たものに畏怖を抱かずにはいられない、強烈な貫禄がある。
その人物が、チラリとこちらを見下ろした途端、鱗の下が泡立つような感覚を覚える。
澄んだ紫色の瞳が、一瞬濃くなったように揺らめいて、燃えるような苛烈さと、氷のような冷たさで、葵の心を全て見通しているかのようだ。
「陛下、青龍様を連れてまいりました」
グアンが前に進みでると、まわりの人間が一斉に道を開ける。
玉座に近づくごとに、覚えのある芳しい香りも近づいてきた。
「もっと近くに寄れ」
低い艶やかな声が、脳髄に直接語りかけられたような錯覚を起こす。
香りがより一層強くなった気がした。
間違いない。
(この人、アルファだ…)
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