ダラクロン

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世の中はままならない。 彼が避妊をしなかったせいで出来た子なのに、当の彼は責任を取るつもりは無い。なんて言っている。 私が強い口調で責め立てると、弱気な彼は申し訳なさそうに謝ってくる。 私が欲しいのはそんな言葉じゃない、誠意を見せろ。と言うと、彼は分かった。と、一言だけ呟き、何処かへと行ってしまった。 それっきり、彼が私の前に姿を現す事は無くなった。 それから数日経って分かった事だが、彼は所帯持ちだったらしい、彼の奥さんがわざわざ私の元へやって来て、それを伝えに来たのだ。 彼に愛想を尽かしきっていた私は、話の一部始終を聞いても特に驚きや悲しみも無く、ただ淡々と奥さんの涙混じりの言葉を聞くばかりだった。 この後、病院に用事があるので。と奥さんに断り、そうそうに話を切り上げて、私は出かけた。 これからあの男の顔を見なければならないお腹の子の事を思うと、とても申し訳ない気持ちになる。 せめて、彼がこの子の面倒をしっかり見てくれる事を願うばかりだ。 産婦人科のベッドに横たわりながら、ぼんやりと、私はそう考えるのだった。 本当に、世の中はままならない。
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