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微笑む者
___『terrible』
妨げられた安息と未来、悪意と腐敗に満ちた絵具が純白を汚す。彩りが乱れ混じる額で、貴婦人は描かれた。
汚された白は、二度と同じ白には戻らない。
悪意なき、善良なき、けして誰も干渉できない場所へ
睡蓮の咲き誇る花園へとお連れ致しましょう。
___『“Ugly Malicious Malicious!“』
生命の海へと 失われた偉人の遺す 色彩を宿す額に収められる箱庭へ
___『“Percé ma mère !!“』
幼き者よ。私を描いた制作者よ_
遺された亡き骸を懐き、辱しめられた屈辱を味わう。
既に機能しない骸ですらも汚す顔料を拭いましょう。
その罪の重さを、愚者は知らない。
_ 何故なのでしょう。この子は虐げられる為に産まれてきたのか。
_何故なのでしょう。愚かしく醜い言葉の杭が、一人を傷つけるのは。
_何故なのでしょう。この子の傍に気高き騎士が存在しないのは。
“王“よ。どうか御応えください。死と裁きの神達よ、今暫し審議せよ。
審議をせよ。理を司る者に問う。
信仰のために作られた偶像は口を閉ざす。
紙の上に描かれた聖者達は腐敗を嘆く
聖母は微笑を浮かべながら血の涙を流す。
血の海がこの額を満たしました。
最早楽園など、何処にも存在しないでしょう。
_『Seuls les gens laids dans ce monde』
聖者と亡者の集う“最後の審判“にて、主に集う多くの亡者達の罪の重さを測りましょう。
大罪を犯し続けた愚者にも、主は微笑むのでしょうか?
_『Beau et pur……』
真に救われるのは、善と悪、どちらなのでしょうか?
天使が微笑みかけているのは、本当に、善なる者なのでしょうか?
_『Serez-vous sauvé après la souffrance et la mort?』
清らかなる者は朽ち、穢らわしい亡者だけが赦される楽園は灰と化せ。
裁きの天使よ、ソドムの様に硫酸の雨を降らせ
__『Je ne veux pas être dans un monde si sale』
孤独となった白き少女を汚す、彼女から滴る赤い血が、煉獄の悪魔を呼び覚まし
好奇の視線の檻に囚われていた私を、額の中で微笑むだけの貴婦人に生命の雫を落とした儚き真祖よ。
貴方の心臓は強く鼓動を打ちました。
穢らわしい者達によって蹂躙され、弄ばれて棄てられた、動くことがない亡き骸の中で。貴方の中で育った憎悪を持ちながら。
日増しに増す憎悪を。汚された無垢な少女を。穢らわしい“顔料“の前から、私は貴方を隠しましょう。
もう傷つく事がない、清らかな世界の中に。偉大な先人達の遺した、美しい絵画で、子守唄を詠いましょう。
__白き少女よ、どうかお眠り下さい。
貴方の遺した最期の誓約によって、汚ならしい世界は滅びを迎えるでしょう。
額の中より、最後の審判によって、貴方の“心臓“によって愚かにも泣いて赦しを乞う亡者の姿が見えることでしょう。
絵にすらも残りはしない、残酷な死を。
この悲劇を、誰が手掛けましょうか?
私は微笑みましょう__犯した罪の重さに焼かれ、煉獄の犬の餌になる亡者達の苦しむ様を。額の世界から微笑みましょう。
__そう。私の前に立つ貴方よ。
彼女の亡き骸を求めて来た貴方よ。
愚かしく、浅ましい。肖像の貴婦人の微笑に、虜になっている貴方は気づかないでしょう。
“見られている“のは、貴方の方だと言う事を。
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