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王はというと、今のやりとりの何が面白かったのか、腹を抱えて笑い転げている。
肩を揺する度、王の紫の首飾りが、わざとらしく音をたてた。
「ヒューズ、お前の勝ちだ。これだからお前のことが気に入らずにはいられない」
「さようで」
答えながらも、僕の頭の中は、蒼の国のことでいっぱいだった。
早くあの静かな国で、思い切り羽を伸ばしたい。
「朝の挨拶ご苦労。今日もまた、蒼の国へゆくのか」
「いけませんか?」
「挑戦的な言い方だな。だがそこがいい」
「お話が終わったのなら、僕はこれにて」
踵を返して歩き出すと、背中から王が声を上げる。
「民への恵みを忘れるでないぞ! お前が与える恵みは、少なからずこの国の安泰につながっているのだからな!!」
「御意に」
「ヒューズ! 王に尻を向けて話すとは何事か! こら! 止まらんか!」
補佐の声は、扉の隙間に吸い込まれて消えた。
あぁ、今日も今日とて無駄な時間を過ごした!
一刻も早く蒼の国に向かいたい。
いっそ土地飛びの魔法で、一息に蒼の国へ飛んでいってしまおうか……。
「民への恵みはお忘れかい?」
しゃがれた声に僕はまたもげっそりとする。
十二人もの兄弟がいるのだ。
城の中に人が多いのは仕方がないかもしれない。
それによって気が休まらないのも、我慢すべきなのは承知している。
しかし、しかしこの姉さんにだけは、いつも我慢がきかない。
僕はしゃがれ声を無視して、つかつかと廊下を歩み進めた。
ところが、声は延々と後ろをついてくるのだ。
次第に鼻をつく土くささと獣臭さに、鼻がひくひく震え始める。
「つれないねぇ、ヒューズ。お前さんの心は氷で凍てついちまったのかい?
あぁ、私のかわいいヒューズ! 姉さんに挨拶はないのかい?
それとも、もう姉さんのことは嫌いになっちまったのかい?
そんなのあんまりさ。
あたしは王より、あんたの母親より、父親より、誰よりあんたのことを愛しているんだよ。そら、こっちを見ておくれ。
笑顔を見せておくれよヒューズ……」
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