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仕方なく目を合わせると、僕より頭一つ分小さい姉さんの、茶色い瞳がきらりと光った。
それとボサボサの髪も。
僕と同じくせっ毛の髪に、これでもかというほど、木の枝やら木の葉やら虫の抜け殻やらをくっつけている。
「おはようリリィ姉さん。僕は忙しいんだ。用がないなら、自分の部屋へ帰ったらどうだい?」
「やだね。この城自体があたしの部屋同然さ。この城すべてが、あたしの住処。暖炉の煤から、屋根の上の鳥の巣まで、全部があたしの寝床さ。この王家・城の面汚し、それがあたしだからね」
僕以外の王子王女には仕事が与えられている、とさっき言ったが、僕以外に、もうひとりだけ例外がいる。
それが、僕の一つ上の姉、リリィ姉さんだ。
姉さんもまた、僕と同じように、仕事を与えられていない。
僕と違うのは、城の中を放浪するばかりで、一切外に出ていかない、ということだ。
なんのためなのかは、知らない。
興味もない。
「どこまで付いていくつもり?」
「見送りさね。あんたが城を出るまではついていくさ」
「そう」
僕は答えながら、肩のティーアをちらりと見やる。
ティーアは前足で鼻を抑えるという、なんとも猫らしくもない器用なことをしてのけていたが、やがて耐えられなくなったのか、僕の懐に飛び込んで、鼻をぐりぐりと服に押し付け始めた。
仕方なく、可哀想なティーアをかくまってやっていると、前を通りがかった騎士隊長の兄さんが、僕を見つけた。
口を開きかけたが、その顔色が青くなり、僕の後ろの姉さんを認めると、そそくさとどこかへ消えていった。
兄さんに限らず、図書司書の姉さんも、政治家の兄さんも、料理長の姉さんも、使用人や城を尋ねていた役人まで、姉さんを見るやいなや、道を開けて姿を消してしまう。
姉さん臭さは、それほどなのだ。大の風呂嫌いのくせに、土でドロドロに服を汚すのが大好きで、いつもあっちこっち、汚れたところに首を突っ込んでは、服を変えず、湯も浴びずに城中を歩き回る。
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