01-03 魔法使いの朝支度

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仕方なく目を合わせると、僕より頭一つ分小さい姉さんの、茶色い瞳がきらりと光った。 それとボサボサの髪も。 僕と同じくせっ毛の髪に、これでもかというほど、木の枝やら木の葉やら虫の抜け殻やらをくっつけている。 「おはようリリィ姉さん。僕は忙しいんだ。用がないなら、自分の部屋へ帰ったらどうだい?」 「やだね。この城自体があたしの部屋同然さ。この城すべてが、あたしの住処。暖炉の煤から、屋根の上の鳥の巣まで、全部があたしの寝床さ。この王家・城の面汚し、それがあたしだからね」 僕以外の王子王女には仕事が与えられている、とさっき言ったが、僕以外に、もうひとりだけ例外がいる。 それが、僕の一つ上の姉、リリィ姉さんだ。 姉さんもまた、僕と同じように、仕事を与えられていない。 僕と違うのは、城の中を放浪するばかりで、一切外に出ていかない、ということだ。 なんのためなのかは、知らない。 興味もない。 「どこまで付いていくつもり?」 「見送りさね。あんたが城を出るまではついていくさ」 「そう」 僕は答えながら、肩のティーアをちらりと見やる。 ティーアは前足で鼻を抑えるという、なんとも猫らしくもない器用なことをしてのけていたが、やがて耐えられなくなったのか、僕の懐に飛び込んで、鼻をぐりぐりと服に押し付け始めた。 仕方なく、可哀想なティーアをかくまってやっていると、前を通りがかった騎士隊長の兄さんが、僕を見つけた。 口を開きかけたが、その顔色が青くなり、僕の後ろの姉さんを認めると、そそくさとどこかへ消えていった。 兄さんに限らず、図書司書の姉さんも、政治家の兄さんも、料理長の姉さんも、使用人や城を尋ねていた役人まで、姉さんを見るやいなや、道を開けて姿を消してしまう。 姉さん臭さは、それほどなのだ。大の風呂嫌いのくせに、土でドロドロに服を汚すのが大好きで、いつもあっちこっち、汚れたところに首を突っ込んでは、服を変えず、湯も浴びずに城中を歩き回る。
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