01-03 魔法使いの朝支度

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だから姉さんは、城の誰もに嫌われている。 僕はいい加減慣れてしまっているが(それほどまでに、姉さんはしょっちゅう僕に会いに来るのだ)、未だに、腐った生肉とドブとを混ぜ込んだような、むせ返る芳ばしさを感じることができる。 僕が姉さんを好きになれないのは、この臭いもさることながら、この匂いを自覚してなお、延々と僕にまとわりつくところだ。 同じはぐれものの僕に親近感を抱いているのかもしれないが、(蒼の国の言い方を借りると)姉さんの頭のネジは一本飛んでいってしまっているので、何を言ったところで、通じはしない。 しかもこれだけではない。 「おおあああああああああああよおおおおおおおお」 けたたましい叫び声に、僕は両耳を塞いだ。 同時に、こちらに迫ってくる羽ばたきの音が聞こえる。 僕はいつもの習慣で、一目散に走り出した。 後ろで姉さんが、「あっこらっ!」と叫ぶが、知ったことではない。 途中に一度だけ振り返ると、姉さんの頭にむしゃぶりつく、白いタイハクオウムが見えた。 姉さんの使い魔だ。 こいつはティーアとは真逆の性格で、僕の大嫌いな鳥だ。 とにかくうるさい。 しっちゃかめっちゃかに、覚えた言葉を、はっきりしない喚き声で吐き散らかす。 このオウムがいるところは、いつでもお祭り騒ぎになってしまう。 加えて、姉さんはこいつにろくな手入れも加えないので、ヤツの近くにいると白い粉が舞って息ができなくなる。 おまけに馬鹿なので、何にでも噛みつき、握りつぶそうとする。 近寄ることすら危ない。 唯一の長所は、今みたいに姉さんを足止めしてくれるところだ。 毎朝同じ時間に飛んでくるあたり、本当は頭がいいのかもしれない。
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