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01-03-01 蒼の国、安らぎの修道女
「へぇ、だからそんなにボロボロなのね」
「わかってくれるのは君だけだよ」
蒼の国で、こうして羽を伸ばしている今を思うと、さっきまでの騒々しさが嘘のようだ。
出された琥珀色の紅茶をすすりながら、僕は大きく息を吐く。
ティーアもようやく窮屈な胸元から飛び出し、美しく親切な修道女に腹を撫でられ、ご満悦である。
姉さんの妄執を振り切った後、街に出てからも、僕は気の休まるところを知らなかった。
兄上の命じた「恵み」というのを済ますのに、走り回らなくちゃいけなかったからだ。
つまるところ、国の何でも屋である。
兄上は、僕の魔力が高いのをいいことに、「どんな些細なことも含めて、民の希望をすべて叶えろ、でなければ外出は許さない」、と僕に無茶を課しているいるのだ。
だから、僕が一歩でも城の外に出れば、町人が我先にと飛び出してくる。
「子供が熱を出したから治癒の魔法を!」
「作物が実らないから、農家の土地に雨の魔法を!」
「壊れた馬車の修理を!」
「服が破けた繕ってくれ!」
「ころんだ! 血が出た! 傷を治せ!」
「つまらないから面白いことをしろ」
「酒が足りない、もってこい」
「噴水の水が汚い。清めてくれ」
「ネズミの死骸を撤去してくれ」
「隣の婆さんが憎いからどっかにやっとくれ」
「朝からささくれが痛くてのう……治せるかい?」
「馬の鼻くそが詰まっちまってる。汚いから取ってくれよ」
「この禿頭に恵みの髪の毛を」
頼み事は大小様々で、医者にたのめ、修理屋に行け、自分でなんとかしろ、と声を荒げたくなるものも少なくはない。
しかし、僕に反論する権利はない。
「どんな些細なことも」という王のお達しだからだ。
僕はなくなく、町民一人ひとりの願いを叶えるしかない。
子供の病気を治すのは、まだいい。
子供が元気になるのは、僕とて嬉しい。
農作物のために雨を降らすのも、有意義と言えるだろう。
しかし、ネズミの死骸だの隣の婆さんだの、ささくれがどうだのは、毎回言われる上に、面倒この上ない小事については、いい加減ご遠慮願いたいところである。
(そもそも隣の婆さんをどっかにやっとくれというのは、一体僕にどうしろというのだろう? あいにくと人殺しは専門外だ、と断ったところ、「この人でなし!」と涙ながらに殴られた。わけがわからない)。
こうして全員の願いを叶えた頃には、たいてい昼を回っていて、僕も精根尽き果てている。
もちろん、手伝いをしたティーアも、くたくただ。
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