01-03-01 蒼の国、安らぎの修道女

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僕が決まって蒼の国に向かうのは、こうしたいざこざや、五月蝿さから逃げるためでもある。 中でも、城下町の一角にぽつんと立っている、この小さな教会は、僕の行きつけだ。 ステンドグラスが美しく、本当に居心地がいい。 貝殻の粉を塗られた建物は、夏は涼しく冬は温かい。 おまけに修道女も修道士も、優しく人ができている。 「蒼の国は素晴らしい! 静かな風、大地の草木も穏やかで、人はみな他人に無関心そのもの。何も口をだしてこない!! 加えて紅茶がうまい!!」 称えながら背筋をぐぐっと伸ばすと、修道女ソリウはおかしそうに、しかし上品に微笑むのだ。 「そう言ってくれると、私も嬉しいわ。この紅茶は蒼の国で採れたものだから。あなたが言うなら、本当に美味しいんでしょうね」 「言っておくけど、王族が皆、高いものだけを好むと思わんでくれよ。僕はここの食事が一番好きなんだ」 「お上手ね」 教会の客間でくつろぐ僕の前で、ソリウは輝く大地の色の髪を軽く払いながら、ティーアを可愛がる。 ティーアは子猫らしく、無邪気にソリウに戯れている。 ティーアもまた、この場所にいるときが、一番子猫らしくなれると見える。 僕もまた、ただのヒューズとしてここにいられる。 ソリウの、王族にも態度を変えない分け隔てなさが、僕の口調すら王族のものから庶民のものへと変えてしまう。 不思議な少女だ。 「この街に入ってからは、大丈夫だった? 最近、この国も物騒になってきたから」 「僕にしてみたら、この国の輩は赤子同然だよ。かわいいもんだ」 「そうね。あなたは立派な魔法使いだもの……それに、本当に怖い人達相手なら、あなたはうまく、逃げてくれそうだし」 「ひどいなぁ。僕を腰抜けみたいに言わないでくれよ」 「器用で賢いと言ったの」 「ものは言いようだなぁ」 参ったと両手を上げると、ソリウは楽しそうに肩をすくめた。 その胸で、金色の首飾りが光る。 この国の宗教を表す、二十字架だ。 二つの十字が重なった、雪の結晶にも似た印。 翼を広げ、両腕を伸ばした女神を表している、だったか。 しかし、ソリウの言葉や仕草に、宗教特有の排他的なものはなく、うっかりすると、ここが他所の国なのを忘れてしまいそうになる。 微笑むソリウを眺めていたところで、扉が二度鳴った。
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