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「入るぞ」という声とともに、ソリウとは正反対の、陰鬱な顔立ちの男がぬっと部屋に押し入ってきた。
「ソリウ。外に子どもたちが来ている。相手をしてやれ」
「あら。もうそんな時間? 絵本の読み聞かせの約束をしていたの」
「どおりで皆浮足立っていたわけだ」
男がニコリと笑った、らしい。
顔にシワが酔って、いかつさの増した顔に、僕は呆れるしかない。
この男はいつまでたっても、愛想が身につかないのだ。
「なんだ、ヒューズ。来てたのか」
「お前は相変わらずの悪人面だなぁ」
「そうか?」と男は不思議そうに、自分の顔をぺたぺたと触っている。
顔が怖いだけで、悪いやつではないのだが。
オーリアというこの剣士は、表情筋がイカれてしまっているのか、いつでも険しい顔をしがちである。
ティーアは楽しそうに、オーリアの体を肩まで登っていく。
額の宝石を、ぐりぐりと押し当て、甘えを乞う。
顎下をくすぐられると、気持ちよさそうに喉を鳴らし始めた。
「ティーアも来ていたのか。元気そうで何よりだ」
「私は行ってくるから、ヒューズ、ゆっくりしていってね」
「あぁ、いってらっしゃい」
ソリウが姿を消すと、オーリアは客間の机の前に、どっかりと剣を横たえ、懐から布を取り出した。
僕が目の前にいるのも気にせず、せかせかと剣を磨き始める。
持ち手から、柄、もちろん刀身も念入りに。
やがて、暑くなってきたのか上着を客間の椅子にかけて、本腰を入れて磨き始める。
「……相も変わらず、お前は遠慮がないよなぁ。僕は客だぞ」
「偉ぶる柄でもないだろう、お前は」
「確かに」
紅茶をすする。冷めてもうまい。
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