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鉄でできた頑丈な扉だ。
力いっぱい引いて、ようやく少しずつ動き出すほどに重々しい。
扉の奥にはレンガ造りの壁があり、子供の目線の高さあたりが、煉瓦一つ分、くぼんでいた。
覗き込むも、明かりは通らず何も見えない。
恐る恐る手を伸ばして中を探ると、間もなく硬い鉄の壁にあたった。
四角い輪郭がある。どうやら箱のようであった。
引き寄せ、明るみに出して見ると、箱は鎖で縛られ封がされていた。
常人であれば、開けることも諦め、ここにおいてゆくだろう。
ところが、白の一族の子供、中でも正当な後継者たる俺には、暁の瞳と呼ばれる、金色の瞳が備わっていた。
暁の瞳は、常人には視えない、光と闇を映し出す。
俺の目に映っていたのは、箱に群がる、無数の黒い影たちだった。
黒の精霊だ。
精霊たちは、ここから出せ、ここを開けろと鎖にとりつき、俺の指を乱暴に引っ張る。
凍るような冷たい感覚があった。
指先が、鎖のいっぺんに触れたのだ。
すると、がんじがらめに見えていた鎖は、呆気なく解け、箱がわずかに開いた。
隙間から漏れ出す、呪詛にも似た低いうめき声に、血の気が引いていく。
<奪え、殺せ、支配せよ……>
声は絶え間なく耳元でささやく。
「わかった?」
大きな手が、箱を閉じさせる。
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