01-03 魔法使いの朝支度

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01-03 魔法使いの朝支度

毎朝目がさめると、真っ先に憂鬱にしてくる奴らがいる。 まぶたを開けるより先に、耳から入ってくる、甲高い歌声が、チクチクと頭の中に刺さるのだ。 <朝だよヒューズ おはようヒューズ> <十三番めの忌み数字 十三番めの末っ子王子> <お前はヒューズ 王の子ヒューズ> <親を忘れた 哀れなヒューズ> <かわいいかわいい 愛し子ヒューズ> ほら、聞こえてきた。 枕の上をペタペタ歩き回り、カーテンを伝って遊んでいる。 空中に好き勝手飛び回り、金色の粉を撒き散らす。 こいつらを、人々は白の精霊様と崇め、たてまつっているようだが、僕にしてみればただの迷惑ないたずら小僧共だ。 「放っておいてくれ。まだ眠いんだ」 布団を被ったところで、無駄である。 精霊たちは、一瞬ピタリと歌を止めたあと、楽しそうにクスクスと笑う。 <ねぼすけヒューズは まだ眠い> <昨日は何時に 目を閉じ?> <月が夜空を 照らす前> <犬が寝床を 見つける前> <ねぼすけヒューズは まだ眠い> <陽は高く高ぁく 登りきった> <犬は狩りの 休憩中> <ねぼすけヒューズは いつ起きた> 「うるさいな。わかったよ。起きればいいんだろう」 布団を乱暴にめくって起き上がると、布に巻かれた精霊や、風に舞い上がった精霊が楽しげな歓声を上げた。 甲高い声に再び頭が痛くなる。 構っていてはしょうがないので、無視して鏡台の前に立つ。 相も変わらずくせっ毛が自分勝手に飛び跳ねている。 クシを通すのも面倒くさく、指で整え、軽く結ってしまう。 しかし前髪だけは言うことを聞かずに、ピンッと逆だっている。 <ねぼすけヒューズは けだるげヒューズ> <くせ毛は元気 主人も負ける> <ぴょんぴょん ぴょんぴょん> <飛び跳ね 遊ぶ> <ヒューズも遊ぶ 何して遊ぶ> <きっと昼寝だ> <ねぼすけヒューズ!!> 「ティーア!! ティーア、いるか!」 精霊の声をかき消すように声をあげると、間もなく「みゃぁ」と柔らかい声が聞こえ、僕の足元に一匹の白い子猫が現れた。 額の傷に埋め込まれた、輝く翡翠の宝石が、朝日を受けてきらりと輝く。
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