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02
事件はその星に降り立って翌日に起きた。
「Type:A、Type:A!!!」
僕はType:Eの焦った声で叩き起こされ、慌てて船から降りた。
どこにいるのかと周囲を見渡すと、昨日種子を植えた地面にType:Eが座り込んで眺めている。
クールなType:Eには珍しく、僕を見つけると興奮したように手を振って呼び寄せた。何事かとそちらへ赴くと、焦れた様子のType:Eが抱きつく様に胸に飛び込んできた。小柄なType:Eはすっぽりと収まってしまう。
今まで感じた事のない不思議な感情が生まれ、これはどんな気持ちなんだと考えていると、Type:Eは「見て欲しいのは私ではなく、こちらだ」と言って僕の顔を地面に向けさせる。
そこにはほとんど成長しきったラシトリアギアムとヒラミビオンヌがあった。すでに生殖活動まで行っているらしく、植えた場所以外にも芽が出ていて、土壌の改善が進んでいっているのが土の色からも簡単に目視出来た。
Type:Eが恐る恐るラシトリアギアムに生った実を摘んで口に含もうとしている。僕は慌ててその手から実を奪い、自身の口に入れて噛んだ。300年ぶりに摂取した甘酸っぱいその実は、特に毒素を含んでいることはなさそうであった。僕が食べたことで心配そうに見ているType:Eに微笑いかけ、別の実を摘んで口に食ませてあげた。
Type:Eが租借する度に、僕の胸は温かくなるようだった。
昨日から何か可笑しい。
自分でも理解出来ない感情に、痺れるように支配されている気分だった。
「これは一体、どういうことだろう?」
覗き込んでくるType:Eに慌てて身を離し、思考をクリアにする。
「…この星は影響速度が異常に早いのかもしれない。通常一日で実までつけるなんてありえない。もしかしたらこの大気の汚染も、生命体がいなくなったのも、つい数日前の話なのかも…」
「影響がすぐに出る星…母星とは違って面白いな」
Type:Eは星そのものに興味を持ったようだった。
嬉しそうに船から少し離れた丘まで走って行った。僕は微笑ましくその後ろ姿を眺めていたが、突然その身体が倒れ込んだのを見て驚き、慌てて走り寄った。
Type:Eは苦しそうに胸を抑えている。
特に身体が弱い個体ではなかったはずだった。
急いで身体を抱き上げて船に戻り、身体の異常値を測定する。
肺に見える影が何かの中毒反応を起こしているようであった。その成分値を詳細に調べていくと、この星の大気成分と同じであるようであった。
この星の大気は、僕らの身体にとっても毒になりえたようだった。
一定量吸ってしまうと中毒反応を起こし、呼吸不全を起こしてしまう。
この中毒反応を回復するには、機体に積んでいる浄化槽機で浄化気泡を精製して吸引するしかない。この残り少ないバッテリーを稼働させながら、発作を鎮める量だけ毎回精製して、回復次第また稼働を止める。
この星で生きるには持病のように寄り添って生きていくしかない。
もしくは運が良ければ、この星の成長速度によって広がったヒラミビオンヌが汚れ切った大気や土壌を自浄してくれるかもしれないが。
あまりにも希望的観測過ぎて、Type:Eに自浄気泡を吸引させつつ涙が流れた。僕らの楽園の地は、あまりにも僕らに厳しかった。
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