0人が本棚に入れています
本棚に追加
水族館のアクアリウム
水族館の巨大水槽の前、2人の男女が中を眺める。
大きなアクアリウムには、海水魚がたくさん泳ぎ回っていた。
エイやサメみたいな大きなものから、アジなどの小魚が大量に泳ぐその光景は、思わず目を奪われる。
「魚、綺麗だね。エイト」
「そうだな、ルカ」
自然と手を繋げる2人の関係は、恋人同士。
高校の時に付き合い、今日で6年目。
公務員勤めのエイトと看護師勤めのルカは、恋人以上の所に踏み出せずにいた。
付き合った記念日に水族館に来たのだが、終始和やかな空気のまま決心した話に持って行けずに、どうしようと焦りを見せるエイト。
ルカはそんな気持ちを知ってか知らずか、純粋に水槽の中の魚達を眺め続けている。
「次の水槽に、イルカがいるって。行かない?」
そう提案するが、ルカは水槽の前から動かず「あと5分だけ」と呟く。
ずっと同じ水槽を眺めているようだが、何かを探す素振りも見える。
「何か探してるの?」
軽い気持ちで問いかけると、少し寂しげな顔で返答した。
「昔、この水槽に“レオくん”っていたよね?」
彼女が言っているのは、高校時代にこの水槽で飼われていたジンベイザメの事だった。
大きな体で優雅に泳ぐ姿は誰もが目を奪われる存在で、みんなからはレオくんと呼ばれていた。
それを思い出したエイトも、水槽の中を覗く。
あれだけ大きな体なら居ればすぐ見つかるのだが、明らかに姿は無い。
「死んじゃったんじゃないかな?俺達がここに来たの高校生以来だし」
「そっか……。仕方ないから次に行こう」
また、話を切り出すタイミングを見失った。
最初のコメントを投稿しよう!