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「おっし、昼休憩とろうか。一時間な」
班長の掛け声のもと、一斉に作業が中断された。俺も工具を片付ける。「すんません。いつものとこ行ってくるんで」と言って工場を後にした。
石塀の迷路を抜けて、急勾配の堤防へ登ると散歩道が横切っている。俺はそこのベンチに腰掛けた。目の前は芝の滑り台だ。その先は川を挟む平地が延々と続いており、右手はグランドになっていた。
「やってるねー。どっちが勝つかな」
毎週土曜日は、少年野球の試合を見ながら昼食をとる。俺の数少ない娯楽だ。ベンチに腰掛けて弁当箱を開けようとしたとき、女の叫び声が聞こえた。
「ちょっとコンタ! ストップストップ!」
何事だと思って声の方を向くと、目の前にどアップの犬の顔が現れた。驚く間もなく、飛びつかれて顔をベロベロ舐められた。その衝撃で弁当箱を落としてしまった。
「すみません。本当にすみません。こらコンタ。何やってんのよ」
一一犬の散歩中か。ちゃんと面倒見てくれよ。
女は慌てふためきリズムよく頭を下げている。そこまでされると怒れない。「大丈夫ですよ」と言うと、女は恐る恐る顔を上げた。目が合う。あれ、どっかで見たことのある顔……、と思っていたら女から声をかけてきた。
「あれ? もしかして亮介?」
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