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明日香は何を言おうか考えているのか、しばらく口をつむり、その後、同じことをいった。
「そうだよ。私は変わってない。
あの日から時間が止まったままだよ。
だって亮介、試合で負けてからもう部活来なくなっちゃったし、学校であってもそっぽ向くし。なんで無視したのよ?」
明日香は弁当に入っている卵焼きを残さず食べると、そのままの勢いで弁当を平らげた。
「何もかも中途半端。あの日から私の時間は止まったまま」
明日香は俺を睨み付けた。俺だって好きで無視したわけじゃない。甲子園へ行けなかったんだ。あんだけ大口たたいて。チームメイトに暴言も吐いて。監督とも喧嘩して。どんな顔して会えばいいんだよ。俺だってわからないよ。
「都合悪くなると、また無視するの?」
あの日のことは今でも思い出す。
5対3の最終イニング。2アウト満塁、2ストライク、3ボール。相手打者は4番だ。
俺は、試合を決める最後の一球はど真ん中ストレートだと決めていた。なんでかわかるか? かっこいいからだよ。漫画みたいな未来を頭に描いて、正々堂々勝負した。つもりだった。
逆転サヨナラホームラン。
そりゃそうだよな。俺のエゴのせいで負けたんだ。俺のエゴのせいでみんなの夏を終わらせたんだよ。俺のエゴのせいで……。夢を奪った……。
「なんか言ってよ亮介」
「ごめん。悪かった」
「そんなことを聞きたいんじゃない」
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