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その時、グランドが騒がしくなった。少年の声と大人の声が混ざりあった音が、試合の張りつめた空気をここまで伝えてきた。
「いいかー。ハルト。お前が打てば逆転だぞ」
監督のがなり声が響いている。グランドを見ると満塁だ。
「あの時と同じ」とボソッと明日香が言う。
俺も明日香も意識が少年たちに向いた。
「わかった。賭しよう。あの子が打ったら、今度こそ私は、私の好きなようにする」
「賭? じゃあ打たなかったら?」
明日香は答えない。じっとグランドを見ていた。
第一球は大きくそれてボールになった。保護者のお祈りのような歓声がけたたましく鳴る。明日香も手を合わせて何かを願っていた。緊張感。野球の醍醐味だよな。気付くと俺も手が汗ばんでいた。
第二球は見事ストライクをとった。よしっと俺は小さくガッツポーズをすると、明日香はモモをバンバン叩いて悔しがっていた。
第三球はまだ投げられてない。俺たちはじっと見守っている。
「私は、止まった時間を、今日進めるの」
明日香は俺の手の上に手を重ねてきた。俺と同様じわっと濡れていた。
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