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……ただし、目覚めさせることのできない王子様だけどな。
「たしか、亜桜さんの」
みなまで言わさず、自由は遮るように挨拶する。自由は小手毬の兄ではない。それなのに誰もがふたりを兄妹だと認識する。あくまで自由は小手毬にとって兄みたいなもの、である。
自由は小手毬を妹以上の大切なひとだと思っているが。
「お世話になってます」
「また来たのか」
呆れたように言われ、ムッとする。
事故から半年が過ぎようとしていた。小手毬は植物人間として障害者認定を受けた。自慢だったふわふわのロングヘアも今ではベリーショートに切り揃えられている。
点滴と酸素吸入だけが彼女を生かしている。
状況は絶望的だった。
職場復帰を果たした優璃の見舞いは月に一回のものへ変わっていた。相変わらず季節の花を絶やすことなく飾ってくれる彼女は、病院関係者から「オソザキ」と呼ばれるようになった。自分は遅咲きの花だからと笑いながら、眠りつづける小手毬に花を届ける優しい加害者。病室の花瓶には今、大輪の向日葵が生けられている。
それでも自由は毎日小手毬を見舞っていた。
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