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大学は夏休みに入っていたから、単位に悩まされることもなかった。
それに、いつだって自由は小手毬に会いたい。たとえ眠りつづけている姿でも。
「面会時間内に行くのは、自由ですから」
言い返す。すると、憐れむような表情を向けられる。
「いつ目覚めるかもわからないのに?」
……コイツ、喧嘩売ってるのか?
「いつ目覚めるかもしれないから、会いに行くんです」
怒りの声に震える自由を、陸奥は面白そうに見つめている。
「千五百分の六」
「……は」
「交通事故で植物人間になった患者が意識を取り戻す確率。要するに二百五十人に一人しか助からない」
ごくり。唾を飲み込む音が響く。
尚も陸奥は続ける。
「俺が言いたいのは、奇跡に縋ることしかできない王子なんか邪魔なだけだってこと」
「なっ……」
絶句する。
……お前それでも医者か?
そう叫びたくても、病院の廊下で叫べるわけもない。
憤怒の形相で相手を睨みつけることしかできない。
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