156人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
そして黄泉還って初めて目の当たりにした、ほんとうの恋。
届かない月に手を伸ばすような、叶わない、叶えられない恋。
あまりに痛くて、苦しくて。
逃げるように、求めてしまったぬくもり。
それは、十年間好きでいようと想いつづけた彼ではない、別の男性だった。
不誠実だって、理解していたけれど。
「あなたなしでは生きていけないの」
その言葉を、ほんとうに捧げなくてはいけない相手が、誰なのかわからないまま。
かよわき花は散らされ、新たな罪を犯していく。
恋なんて得体の知れない感情に溺れたくない、けれども身体は心とは裏腹に、意地悪なのにやさしい彼を求めて蜜を溢れさせる。
このままじゃ壊れてしまう。けれど壊れてしまえばもうなにも怖いものはない。
解離するふたつの思惟はぶつかりあいながら、自身に潜む本音を探りつづけ、白日の下へ晒すべく、ふたりの異性に向けて醜い姿を暴いてゆく。
――やめて。これ以上、愛さないで。
「どうかあたしに麻酔をかけて。これ以上、恋なんかできないように……!」
亜桜小手鞠、十九歳。
恋に憧れていた少女は乙女となるも、未だ与えられる愛に、怯えている――……
最初のコメントを投稿しよう!