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「今、縁起でもないこと考えただろ?」
ミントグリーンの術着を着た若き医師は救急車から運び込まれた患者を一目見て、息を飲んだ周囲の人間を一蹴する。
「匙投げるなよ!」
怒鳴りながら、手術室へ駆け込み、バタンと扉を閉める。ペールグリーンの術着を纏い、待機していた医師、早咲が彼を確認して頷く。無言で合図を出す。
パッと手術中のランプがあかく、点灯をはじめる。
陸奥は麻酔を施し、患者の状態を改めて見やる。そこで、救急隊員が諦めた表情をしていたことに理由がいった。
……確かにこのままだと、十中八九、死ぬな。
運ばれてきた十六歳の少女は意識不明の重体だった。頭部を強く打ったらしく、外傷性くも膜下出血、脳挫傷、急性硬膜下血腫が認められる。頭蓋骨は折れていないようだが、危険な状態に変わりはない。MRIで脳の中心部である脳梁、中脳、大脳基底核各部に損傷が見られたことからも、意識障害が重篤であることが理解できる。手術後もこの状態が続くようならびまん性軸索損傷の診断もできそうだな、と陸奥は考える。
だが、彼女はまだ生きている。最善を尽くせ。無為に死なせたりするな。諦めたら終わりだ。
考えながらも動かす手は止まらない。眩しすぎる灯りの下、早咲が頭を開いていく。鉗子を操る彼の行為をひとつひとつ見やりながら、陸奥は次にすべきことを即座に組み立てていく。
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