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星降る夜に、逢いましょう
「星降る夜に、またここで逢いましょう」
流星群が降った夜、偶然バーで出会った彼女と、そう約束した。
彼女の人差し指にはめられたサファイアの指輪が月明かりに照らされ、蒼く輝いていた。
「君だって分かるかな?」
「分かるわ。きっと」
彼女は長いまつ毛を瞬かせ、微笑んだ。彼女の肌は病的に白く、細い手は冷え切っていた。
・
再び、星が降った夜。私はあのバーへ足を運んだ。
すると、あの席に彼女が座っていた。間違いない……あのサファイアの指輪をはめている。
「久しぶり」
声をかけると、彼女は驚いた様子で私の顔を見た。
やがて「お、お久しぶりです」とぎこちなく笑った。
「あれから何年経ったか……君は変わらず、美しいな。むしろ、あの日よりも顔色が良くなった気がするよ」
「……ありがとうございます」
言葉とは裏腹に、彼女は悲しげに目を伏せた。
「何かあったのかい?」
「実は……母が先月亡くなったのです」
彼女は目に涙を溜め、答えた。
「うちは短命な家系で、私の祖母も母を産んですぐに持病が悪化し、亡くなりました。祖母は祖父と運命的な出会いを果たし、結婚に至りましたが、祖父は祖母との突然の別れにショックを受け、痴呆を患ってしまいました。毎年決まった日に、祖母と出会った場所へ足繁く通い、祖母を待っているのです。母は祖父を哀れに思い、毎年その場所で祖母を演じていました。母が亡くなった今、私がその役目を背負うことになりました。幸い、祖父は私だと気づいていないようですが……かえって、辛いです。こんなにも心が苦しくなるなんて、思いもしなかった」
そう話すと、彼女は椅子から立ち上がった。彼女の目から、大粒の涙が星のようにキラキラときらめきながら、こぼれた。
「だから、貴方と会うのはこれきりです。どうか私のことは忘れて下さい。さようなら」
「ま、待ってくれ!」
彼女は店から走り去っていった。
私も慌てて追いかける。まるで体が言うことを聞かず、思ったように走れなかった。
・
しばらく走って、ようやく彼女を見つけた。
彼女は橋の上に立ち、何かを放り投げていた。その何かは蒼くきらめきながら、チャポンと音を立て、川に沈んだ。
「星子(せいこ)!」
私は彼女の名前を呼び、駆け寄った。しかし彼女の顔を見て、ハッと目を見張った。
そこにいたのは、孫の瑠璃亜(るりあ)だった。
「瑠璃亜……どうしてここに? 友達と流星群を見る約束をしていたんじゃ……」
瑠璃亜は私の問いには答えず、寂しげに微笑んだ。
「お帰り、おじいちゃん」
(終わり)
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