アンビバレントを飲み干して

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アンビバレントを飲み干して

 うー、頭ぐるぐるするぅ……。 「ったく、飲みすぎだ。気をつけろ」  ふぁい、と気の抜けた返事をする。でもまさかビール3杯でここまでなるとは思っていなかった。いつもならもう少し飲めるはずなのにー……。 「うぅ……すみませぇん……あーでもどうせだったらお姫様抱っこで運んでほしかったなぁ、なんて……」 「……冗談言えるくらいは元気ってこったな」 「あっ、嘘です元気じゃないです、結構平衡感覚やばいんでマジ勘弁してください、支えるその手を離さないで下さい!!」  研究室の隣の部屋。部屋の大半が本棚で埋め尽くされる中、ぽつんと机とベッド、小さなソファが置かれている。私は先生に支えられながらベッドに倒れ込んだ。 「世話の焼ける……もう卒業なんだぞ、いつまでも学生気分でいるなよ?」 「でも先生の生徒でいられるのは今日までじゃないですかぁ……」  卒業式はもう終わった。この追いコンが終われば、先生とは滅多に会えなくなる。皆が帰った後でもこうして残ったのは、離れなくないからだ。あれだけアピールしてるんだ、先生だって何となくわかってるとは思うんだけど。 「仕事の合間縫って会いにくりゃいいだろ。流石に俺だって卒業生を突っ返したりはしねぇよ」 「でも毎日は会えないじゃないですか……」  うじうじ愚痴る私に先生は大きくため息をついた。確実に面倒くさいと思っている顔だ。いつも見ていたからよくわかる。 「そりゃそうかもしんねぇけど……仕方ねぇだろ」  何かを考えこむように口元に手を当てた。 「状況ってのは、変わるもんだ」  どこか遠くを見ながら、眉を潜めている。 「ここまで残ったんだ。もういいだろ。少し休んで酔いを覚ましたら帰れよ」  ごろりと寝返りを打つ。そりゃそうだけど……帰りたくなかった。1分1秒でも先生といたい。酔っているのもあってか、いつも押さえきれる気持ちが、今は膨れあがって、私を飲み込もうとしている気がした。立ち上がろうとしたその手を掴む。 「もう少しここにいて欲しいです」 「お前と違ってこっちは年なんだ。寝かせてくれ」 「じゃあここで寝てください。私、そこのソファで寝ますから」
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