じごくのはじまり

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 通いなれた帰り道。 連続された不快な不在着信を一括削除する。 早朝から嫌ってほど見たことある呉服屋を見上げた。 「………。」  突然両親を亡くした私は伯父さんの家に引き取られるものだと思っていたけど…子供の多い伯父さん家では家計的に厳しいと言われ、親戚一同たらい回しにされた。生まれた家にも帰れなくって。  親戚のガキは髪の毛引っ張るわ教科書破るわで本当、大変な学生時代になった。  結局どこの家でも大学には行かせてもらえず、東京に住む父さんの妹の店で働かせてもらうことになったのだ。それがこの呉服屋。  叔母さんはお世辞にも優しい人ではない。 「あたしゃあんたみたいな同情媚び売り人間って大嫌い!」 「働かないなら出ておゆき!兄さんの子供だからって甘やかして貰えるなんて大間違いたよ!」 「金のないあんたを引き取ってやったんだ、それなりの恩を返しな。当然だろ!」 「若いうちに御曹司でもだまくらかして叔母さんに楽させな!お見合い仕立てるから!」  口は悪いが確かに働くだけ衣食住は与えられた。限りなく最低限だけど。 なんとか毎日生きることは出来た。  二十歳の成人式には一番綺麗な着物を貸してくれたから本当は優しい人?って思ったけど… 「店の宣伝をするんだよ。当たり前だろ?十人客を作るまで帰って来るな!」  この十人が本当に大変だった。 高校時代の友だちになんとか頼み、拝み倒して得た十人。今の友だちは一人もいない。 唯一残った親友は渚だけ。 「さむ…」 やだ私、何、店の前でぼーっとしてんだろ。 冷静になった璃子は裏口を通り、二階の自宅に上がった。 コンコン 「ただいま帰りました、さお里さん。」 「………。」  うん知ってた。 店の商品を泥棒されたら困るからって二階の鍵も預けてもらえない私はこうやって叔母さんが扉を開けてくれるのを待つ。絶対声が聞こえたはずなのにテレビの音が大きくなるばかりで開けてくれない。 ここでしつこく声を掛けると後で折檻される。「年老いた叔母さんの元で食わせて貰ってるくせにあんたは急かして!人の情がないのか!」なんて罵倒されて太ももをベルトでぶたれたくないので黙って立っとく。  毎度10分くらいで開けてくれるから気にしない気にしない。気にしてたら身が持たない。引っ越ししたいなぁ。 「……。」 私だって一秒でも早く出て行きたいけどさ。  それとなく引っ越しの話をすると… 「あんたが出てったらあたしゃ近所の笑われものだよ!姪が夜逃げしたって言われたらあたしゃ死ぬから!遺書にお前の名前を書いてやる!」と脅されているのでどうにも出られない。私はここと、店に囚われている。 店を辞めさせて貰えない理由も以下同文だ。 ガチャ 「おや?まだ生きてたのかい。残念だね。」 「開けてくださりありがとうございます。」 なんて言われてもこう返さないと一晩野宿。 仕方なくお礼を言って不機嫌に鼻を鳴らす叔母さんにありがたく頭を下げた。
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