あと23時間55分

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あと23時間55分

 俺、(ただし)はきっちりとした男になりたい。  社会人になれば、きっちり5分前には待ち合わせ場所にいることが基本だ。  前持って社会人の基本を行い、前もって余裕のある行動を心がけている。  少しの遅れで人の信用をなくしてしまうこともある。  だから、きっちりするということはとても大事なことで、俺はそれを目指している。 「今、何時だ?」  デートの相手であるかなみちゃんが待ち合わせ場所にいた。ポーカーフェイスで怒っているのか、いないのかわからなかった。  かなみちゃんは白い腕時計を見て「9時55分」と答えた。 「何秒?」 「48秒」 「……48秒」  一瞬で血の気が引いた。絶望だ。  話していた秒数を差し引いたとしても俺は55分きっちりにくることができなかったのだ。  俺は地面に頭をつけて謝った。  全て赤裸々に語った。何があったのかを。  俺はだらしない男だったのだ。  金に汚いおじさんの方がよっぽどきっちりしている。俺の目指すきっちりとした人間は遠かった。 「……俺は、どうすればいい」  俺は、きっちりと約束を果たせなかった。だからデートをする資格はない。だが、約束を果たせなかったお詫びとしてきっちりとデートで償いたい。  だから、デートに誘いたい! のだが。 「俺は5分前に来れなかった。今日はもうだめだ」  まずは謝罪しなければならない。そのために花束とお詫びの手紙を、用意して、その後にかなみちゃんの気持ちを聞いて、許してくれた場合はデートに誘って、許してくれない場合は許してくれるまできっちりと謝って、それからデートにまた誘って、今度こそ余裕をもってやることをやってーー。 「そう」  そういい残して身を翻し、かなみちゃんは行ってしまう。  そうだ、こんな男とデートなんかしたいはずがない。  きっちりとしたスーツも、行く場所のプランもどの道を通っていくのかも、何時にどの場所に行くのかを秒刻みで考えたのも、デートの入門書を片っ端から読み、そわそわして眠れなかった日々を過ごすのも、全て無駄になった。  きっちりとしなかった自分の責任だ。  これを機会に自分を見つめ直そうと思う。  俺も帰路に着く。今夜は反省会をきっちりと行わなければ。  反省会の内容を考えながら歩き出す。すると、くいっと冷たい何かに引っ張られた。振り返るとかなみちゃんがまっすぐ俺の目を見つめながら、 「明日、待ってる。10時に、また」  と呟いた。  俺ができなかった再デートの約束をきっちりしてくれた。この感謝を伝えなけーー。 「……きっちり待ってる、だけで十分。ね」    再デートまであと23時間55分。
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