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それは去年のことだった。
朔たちはゴミの山から保存状態の良い旧時代の本を何冊か発見した。その本の一冊には気球のことが詳しく書かれていた。
凪はその本を見てから気球づくりに取り掛かり始めた。なんでも凪は空を飛ぶことに昔から憧れを抱いていたという。
朔は暖かい空気なんかで、本当に空を飛べるのか半信半疑だった。
実際、それらの本に書いてあることは本当かどうか怪しい記述が多かった。
世界を照らす太陽や、夜に輝く月というものも紹介されていたが、そんなものはこの世界には存在しない。昼はただ空が明るくなり、夜には星が輝く。
その本はフィクションが書かれているのではないかと朔は怪しんでいた。
だが、凪が理論上は飛べるはずだと言うので、朔はそれを信じることにした。
気球自体は既にゴミ山で見つけたものを流用してほとんどが完成し、残るパーツは燃料のガスだけとなっていた。
二人は台車にガスボンベを載せて、ねぐらにしている町外れの廃工場に持ち帰り、詳しく調べた。その結果、ボンベにはガスが満タンに充填されていることがわかった。
凪は顔をほころばせて朔を見た。
「今夜、決行しよう。ついに空を飛べるんだ」
随分、気が早いなと朔は思ったが、実際、決行が早いほうがいいのは事実だった。
空を飛ぶことは法律で禁じられているのだ。
気球が警察に見つかったら、空を飛ぼうとしているとして、警察に捕まってしまうかもしれない。まあ、警察が前時代の技術である気球を知っているかはわからないが。
仮に警察が気球を知っているならば、気球が警察に見つかる前にさっさと空を飛んでしまったほうがいい。わざわざ、見通しが悪い夜に飛行しようというのも、目立たないようにするためだ。
しかし、どうして空を飛んではいけないという法律があるのだろうかと朔は思う。そもそも、空を飛ぶ技術がないのに、空を飛んではいけないという法律があるのは不思議だ。昔は前時代の技術が残っていたから、空を飛ぶ手段があったからだろうか。
朔は不意に死んだ父親が最後に叫んでいた『世界の秘密』というフレーズを思い出した。
朔は何かにつけて、世界の秘密について考える。世界の秘密とやらのせいで朔の両親はいなくなってしまったのだ。
空を飛んではいけないという法律が、実は世界の秘密に繋がっているという妄想を、朔は頭の中で思い浮かべた。
しかし、朔の貧困な発想力では、どうしても空を飛んではいけないという法律と世界の秘密を繋げることができず、妄想は霧散していった。
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