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離陸
空は暗くなり、頭上には降るような星空が広がっていた。
ふたりの拠点である廃工場は天井の半分が崩落しており、室内からでも空を眺めることができる。
遠くに鈴虫の鳴き声を聞きながら、朔はガスバーナーの炎を眺めていた。
廃工場内に設置した気球に大きな扇風機で風を送り込んだ後、バーナーの炎で加熱された気球はその巨大な袋を徐々に起こし始めていた。
凪は気球を見上げた。その目にはバーナーの炎が映り込んでいる。
「今の所は順調だね。朔、扇風機を止めて」
朔は言われるがままに、扇風機を電源を切った。
横倒しになっていた気球は暖かい空気の浮力で既に立ち上がっていた。
朔と凪は倒れているバスケットを起こし、その中に乗り込んだ。
「ついに僕たちは空を飛ぶんだ」
凪が興奮した様子で朔を見た。
その時、廃工場の扉が激しく叩かれた。
「警察だ! 開けなさい!」
立ち上がった気球は大きすぎて外から丸見えだからか、警察が来てしまったようだ。この廃工場は街から離れているから、バレないと思ったのだが、誤算だったようだ。
警察が気球というものを知っているにしろ知らないにしろ、気球を調べれば、空を飛ぼうとしていたことはバレてしまうだろう。このままでは、きっと二人は逮捕されてしまう。
「凪、これ今すぐ離陸できないのか?」
朔は焦って、凪の腕を掴む。
凪はバーナーの出力を上げるが、首を横に振った。
「ダメだ。もう数分かかるよ。僕が警察が食い止めるから、朔だけで空に行ってよ」
「え? なんでだよ!? お前、あんなに空を飛びたがっていたじゃないか」
「凪は演技が下手だから、警察が来る時間を稼るとは思えないしね。空がどんなだったか、後で聞かせてね」
凪はそう言い残して、バスケットから飛び出し、廃工場の入り口へと走った。
「おい! 凪!」
朔は凪を呼び止めるが、凪は振り返らなかった。
しばらくして、バスケットが揺れることもなく、気球は徐々に上昇を始めた。
凪の姿は見えないままだ。もう気球に乗るには間に合わない。
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