空の向こう

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空の向こう

 ゆっくりと地面が遠ざかっていき、朔は不安になる。  気球は廃工場の崩落した天井から外へ出て、ゆっくりと上昇する。少し離れたところに街の明かりが見えた。 「すげえ……」  夜で周りが暗く、実感が湧きにくいが、朔は空を飛んでいた。飛ぶというよりは浮くという感覚が近いかもしれない。  高度が上がるにつれ、街も廃工場もどんどん小さくなり、代わりに星がどんどん近づいてくる。 「あれ?」  朔は怪訝に思った。星は遥か遠くにあるはずなのに、高度が上がるにつれて、星が徐々に近づいているようなのだ。  ついには星が目の前にまで近づいてきた、というところで、バスケットが大きく揺れた。  朔は落ちないようにバスケットにしがみついた。  朔が空を見上げると、気球は存在するはずのない空の天井に到着していて、気球の大きな袋が天井にぶつかっていた。  よく見れば、星は天井からぶら下がっている電球であった。 「何だよこれ……」  朔はバーナーの炎を小さくした。  朔は父親が最後に叫んでいた『世界の秘密』というフレーズを思い出す。  まさか、これが世界の秘密だというのか。世界には空はなく天井があって、星は電球でできている。  一体、この世界はどうなっているんだ。  朔はどうしていいかわからず、頭を抱えた。  このまま地上に戻れば、世界の秘密を知ってしまった朔も両親みたいに消されてしまうかもしれない。これは大変なことになってしまった。  どうしようと迷いながら、ふと前方を見ると、少し離れたところに体の幅ほどの足場が見て取れた。  どうせ地上に戻って殺されてしまうなら、空の天井を調べてみるのもありかもしれない。それに、両親が世界の秘密のせいで消されてしまったのなら、世界の秘密についてちゃんと知りたいと朔は思った。  もしかしたら、バーナーのガスが切れて、気球は朔を残して地面に落ちてしまうかもしれなかったが、それでも構わなかった。  朔は意を決して、バスケットから足場へ跳躍した。失敗すれば何千メートルも下の大地に叩きつけられることになるが、上手く着地に成功し、朔は胸をなでおろした。  眼下には広大な大地が広がっている。なるべく、下を見ないようにして、朔は足場を進んでいく。朔の足音と風の音だけが辺りを支配していた。
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