空の向こう

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 足場の先にあった梯子を登ると、手すり付きの狭い通路にたどり着いた。その通路ははるか先まで張り巡らされているようだ。もしかしたら、電球のメンテナンスのためなのかもしれない。  朔は狭い通路はあてもなく歩いた。  凪はもう警察に捕まってしまっただろうか。賢いあいつのことだ。上手く警察からも逃げ切ったかもしれない。  そうあってほしいと願いながら歩いていると、朔はさらに上へと繋がる梯子を発見した。  梯子は天井のさらに上へと繋がっているようだった。  空の天井の上。天上の世界へとでも繋がっているというのだろうか。  もはや進むことしかできない朔は、梯子を登り始めた。  天井に据え付けられたハッチの固いバルブをなんとか回し、ハッチを開く。  その先には長い間、誰も入っていないのか、カビの匂いが充満していた。  ハンドライトでハッチの中を照らすと、先が見えないほど長い梯子が奥へ続いている。  ハンドライトを胸ポケットに入れて上方を照らしたまま、朔は延々と梯子を登り続けた。  下は一度も見ていない。見ると恐怖で動けなくなるからだ。  どれほど登り続けたかわからないが、ついに朔は梯子の先へとたどり着いた。  重いマンホールの蓋を少しずつずらし、隙間から朔は外に出た。  朔の目に映ったのは、草木一つ生えていない荒涼とした大地と、宝石を散りばめたような星空だった。  空の真ん中には他の星とは比べ物にならない大きさの星が輝いていて、朔はそれが去年見つけた本に書かれていた月であることに気付いた。  初めて見る金色の月に朔は見とれてしまう。  空の天井の上にはもう一つの大地があった。  いや、こっちが本当の大地なのではないかという可能性に朔は思い当たった。旧時代の人々は朔が今いる大地に暮らしていて、だから朔のいた世界にはなかった月が旧時代の本に書かれていたのだ。  今まで暮らしていた世界は地下にあって、朔が今いる大地こそが本当の地上だった。  これこそが世界の秘密だったのだ。  朔は寒々しい大地をあてもなく歩きだした。  もしかしたら、世界の秘密を知ってしまった両親は、本当の地上に追放されてしまったのかもしれない。この世界のどこかで両親は生きているのだとしたら。  そんな希望を抱いて、朔はフラフラと歩んでいく。  彼の姿を夜空の星々だけが、淡く照らしていた。
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