第一話 キメラ

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第一話 キメラ

「あ。超能力者だぁ」  妙に明るい少女の声が、大河信吾(たいがしんご)の耳に届いた。  いくら聞いても信吾には難解な数学や物理のかったるい授業が終わり、やれ帰れると、靴を履き替え、生徒用玄関を出た所である。  信吾が声の方向にチラリと目をやる。  そこには、自分と同じく私立鷹羽学院高等部2年のバッチを付けた少女がいた。  くるりとした大きな瞳が、好奇心たっぷりといった様子で信吾を見つめている。綺麗な栗色の髪は、少しも痛んだ様子が無ぃ所を見ると、染めているのではなく元々少し色が薄いのだろう。肌の色も抜けるように白い。明るい色の髪は肩につかない程度の長さでレイヤーをたっぷりと施し、ふんわりとした感じの髪型が、少女の明るい声とマッチしていた。おのずと性格も明るく、誰とでも仲良くなっていくタイプとすぐに分かった。事実、今、信吾は気軽に声をかけられた。 超能力──────と。 「ねえ。あなた、超能力者でしょう?」  少女は微笑みながら信吾に近づいた。  少女にしては当たり前に行われる馴れ馴れしい行動は、どちらかと言えば友達の少ない信吾に煩わしさを感じさせた。 (何だ、この女)  とは思うが、信吾は無視できずにもいた。  おそらく、少女が、十人が十人とも「かわいい」と答えるような容姿に加え、彼女の言う“超能力”という言葉に少なからず信吾は身に覚えがあったからだ。
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