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序章 『鳳凰』
ともしび。
直立する蝋燭の火が、世の静けさを物語っていた。
揺らぐことのない素直な姿勢に、本質を見誤りたくなる。その美しさに触れても許されるのだと、ぬくもりを分かち合えるのだと。
目に映る全てが実体を伴っている事を理解できるのは、指先を赤々と燃やされた後なのだろう。
静かすぎる夜だ。まるで、五感を縛られているかのように、思考だけが回り続ける時刻。世界が語ることを止めたとき、一人がどれほど心細いか。鋭敏になった直感だけが、自分の身を守るすべだと知っているかのように、燃えている。
いつもなら、真っ先に肌に触れてくるはずの夜風が起きない。
嵐の前に似ているなどと思う心の荒み具合を、なじる者など此処には居ない。何故ならば、この部屋に存在している魂は貴方だけなのだから。
そう。
ここには貴方が一人きり。
私はいない。
存在を許されていない私は、こうして観測するだけ。
今はまだ、それでいい。
鳳凰が羽を休める夜の隙間に、始まりの鍵が落ちている。
物語を始動させよ。
これを見ている者達よ。
物語を始動させよ。
そのための鍵なのだから。
「だれ?」
ふと、貴方は窓に目を遣った。
不意、硬直した体。
笛、世界を司る物が警鐘を鳴らした。
不利……ここまでか。
観測者はあくまで観測者でなければ観測を許されないというのに正体を見破られてしまえば観測しきれないまま観測を諦めなければいけない観測者としての失態。
「逆さまのコウモリ?」
この後の事を少しだけ書き残して行くが、これから先は当事者たちが語るだろう。
私は夜に溶け出した。
跡形もなく、闇へと溶けた。
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