今年は新しいこと

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今年は新しいこと

小学校と役場の間を繋ぐように村民交流コミュニティセンターという二階建ての建物が建っている。 交流センターはそれぞれ一階部分が小学校と役場とドア一枚でつながっていて自由に行き来ができる。 コミュニティセンターの二階はカルチャーセンターのような和室や洋室があり、一階は自動販売機が3台と大きなテレビと机が五個、丸い椅子が三十脚置いてある。 午前中から三時ぐらいにかけては村民で溢れているが、午後四時以降は誰もいない。 私が共用スペースに着くと、金髪の人が市役所よりのテーブルにもう座っているのが見えた。 今年の担当はやっぱり、あの斎藤さんだったらしい。 彼の目の前に到着すると「斎藤さん、初めまして山浦です」そう頭を下げた。 「斉藤です、亜紀先生のこと何回かお見かけしたことがあって、知ってます」と斉藤さんも頭を下げた。 「私も斉藤さんのことお見かけしたことあって、知ってます。子供達もよく斉藤さんがって言ってるし」 「本当?子供達に何話されてるんだろ?」「取り留めのないことですよ」 そう言って二人で目を合わせて笑った。 彼は持っていたクリアファイルから何枚かの紙をとりだした。 「早速なんですが、実は去年の要綱も貰ったんですが、今年ガラッと変えてみようと思うんですが、いいでしょうか?」 髪の色からして、「去年並みでいいっすよね」と言いそうな感じだったから正直驚いた。 「はい、こちらは全然構いません。体験させて頂く立場なので」 「亜紀先生、これ作ってきたんで見て下さい」そう言うと手書きの紙を何枚か渡された。 その紙を見ると、一日目は役場で来庁者の対応や雑用をして、二日目はダムにて、ダムを管理している人の話を聞いたり、ダムのことを勉強する。三日目には午前中は村の公共施設巡り、午後からは役場に戻って来庁者対応になっていた。 昨年の要綱を見る分には三日間ずっと、村役場内で雑用をやらされていたらしい。なので今年の方が子供達の学びになりそうだ。 「どうですか?僕まだパソコン勉強中で上手に文章が作れなくて、手書きの方が早いと思って書いてきたんですが、僕の汚い字読めますか?」 「読めますよ、何かこう熱意が紙からも伝わってきます。去年までは三日とも役場内で完結してたから、凄くいいなって。今ダムでも揉めてるし、ダムの勉強するってすごく大切だと思います」 すると彼は少しだけほっとした様子で「校長先生の許可降りそうですか?」と言った。 「うちの校長、今年新しく来たばかりなんですけど、柔軟っていうか新しい物好きだし、ダムのことも心配してたから多分大丈夫だと思います」 「あー良かった、この村の将来を担う子供達にダムのこと学んで欲しいなと思って」 「大事ですよね。あんなことなってるし」 彼は難しい顔で「そうですね」と頷いた。 私は村民ではない部外者だけれど、思わず強い口調になってしまった。 「みんなダムが入れてくれる税金のおかげで、色々な補助が出てるの、わからないのかな」 「今までが説明しなさすぎたんです。これぐらいの税金が入って来てて、こういう補助に使われてますって、みんな知らないでしょ?だから村の為に今から僕頑張ります」 そう爽やかに彼は言い切った。 今までは外見から勝手に判断してボンクラなボンボンと思っていてごめんなさい。 真剣に村のことを考えてる斉藤さんに好感を持った。 やっぱり人は見た目では判断してはいけない。
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