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密売人はあらゆるものを高値で売りさばくのが仕事である。
それが物であろうと生き物であっても変わらないし多くは厄介ごとばかりだ。
望んで苦労するとわかってる仕事に就く者はいないが
俺のように選べない者もいる
先祖返りの異形の獣人。
見た目は魔物に近く他の獣人どもには嫌われて仕事は限られていたし
収入を考えると仕事内容はどうであれ売人をやったほうが稼ぎがよかった。
俺がそいつの世話をすることになったのは売人の中で魔物耐性が1番高くて影響を受けにくいからだとか。
次の仕事が蜘蛛の魔物の世話だとかつくづく運がない…
俺の中の嫌な仕事ランキングがまた更新されそうだ。
魔物なんて知能を感じない厄介者で駆除対象だろ? なんで世話するんだよ
糸が高く売れるのか、そうか、俺が面倒をみるのでなけりゃ喜べたんだがな
「あぁ、それから糸を巻き取るのもお前の仕事だから!」
(ぁあ"!?聞いてねぇよ、俺の仕事が増えてんじゃねぇかァ!!)
しっかしコレを1人に世話をさせるって力で負けることはなくても
のしかかられたらダメージはそれなりに受ける巨体じゃねぇ―かと見上げたのは
上半身は人間っぽいが下半身は蜘蛛の化け物である。
まぁ、俺の姿が異形に近いせいか嫌悪とかはなく体のくびれは魔物であっても色気さえあり俺のイメージしてた魔物とはちょっと違っていた
ご飯も何を食べるのか分からないから俺たちが食べるようなものから
いろいろ試したが雑食といっていいほど何でも食べるようだ。
食べ方もガツガツしてないし俺に襲いかかるでもなく行動を観察してるのは逃げようとしているからか…暴れないのはいいことだ。
誰もやったこともないであろう魔物から糸を巻き取る作業は難しく
はじめは何度も失敗してブチブチと短く切れたし仲間が言ってた硬くて丈夫な糸をださせるのに苦労した。
魔物の研究をして糸詰まりをすれば軟膏をぬって滑りをよくして尻をマッサージして糸が切れないように工夫したりと大変だった…
マッサージなどされたことがないであろう魔物は口を押えてプルプルと体を震わせていたようだけど、きっと気持ちがよかったんだろう自分の足じゃとどかない場所だしな。
1日に1本しか巻き取れなかった糸が2本目がとれるようになると魔物が死ぬと困るからって体調管理まで俺の仕事となり1年がたつと3本を巻き取れるまでになっていた。
そのころになると魔物は巨体の前足で俺に抱きつくようになったが
俺に懐いたってことでいいんだろうか?
(逃げることもなく俺を襲うこともないって魔物の本能として大丈夫かコイツ)
魔物に感情はないとされているが2本目の糸を巻き取るときに恍惚としていて俺の手を熱い視線で見ているように感じたのは気のせいだよな?
魔物相手に声をかけてバカみたいだが糸が切れずに巻けるようにと願掛けのようなものだ。
知能が高い魔物だったなら捕まって閉じこめられて糸を奪われる相手に返事などしないだろ?
いや、知能が高ければとっくに逃げだしてるはずか・・・
そんな生活もとうとう終わるらしい
糸が売れなくなったとかではなく売れすぎたことよる醜い争いがおこっていた。
同族の魔物を探したけれど見つからず魔物の所有権を仲間同士で争ってるんだが…決着がついたら俺はお役御免てことでいいのか?
金のことで頭がいっぱいで魔物の耐性がないから俺に世話させてたってこと忘れてないよな…体調管理や糸の巻きとりできんのかコイツら
魔物の所有権を勝ちとればもれなく魔物の世話がついてくることぐらい理解してるよなァ?
「……ってことで俺が世話すんのもあと少しかもな。所有者が誰になっても部屋の掃除と体を拭いてからのマッサージを忘れずにしてくれる奴だといいな?」
今日も魔物の世話と糸巻をしながら話しかければ
魔物は返事をすることなく俺の指をジっと見つめていた。
コイツは世話するのが俺でなくなっても平気なのだろうか?
そんなことを考えてたら焦げ臭い匂いを嗅ぎとって
魔物の目もいつの間にか俺の指ではなく上を見つめていた。
嫌な予感がした。
俺たちがいるのは地下になってる場所で1階で火事がおこれば逃げ道がなくなる。
1階に上がる階段を見に行けば煙につつまれていた。
「ほんと、ツイてねぇ―な。」
妙に冷静な自分がいて、このままでは魔物と一緒に丸焼きか蒸し焼きかのどちらかだ。
魔物が何か言いたそうにこちらを見ている。
冷静な判断をするなら魔物を逃がすなどありえない
ありえない…けど俺は
自由になった魔物は俺に近づき俺たちの周りに糸で球状の分厚い糸の壁をつくり内側から転がして上下左右が分からなくなる荒っぽい動きと空気のうすさに俺は気を失い蜘蛛の住処で目覚めたのだった。
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