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そろそろ決着をつけなきゃな。もうデセールも終わりそうだ。
「神野くん、このムースすっごい美味しいよ。可愛いし」
「ほんとですね。ベリー系? さっぱりしながらしっかり甘い」
「幸せだよ。甘さは人を幸せにする力を持ってる」
先のメインディッシュで「幸せだよ。肉は人を幸せにする力を持ってる」と頬を落としていた秋山さんは今にも溶け出しそうなほど柔らかな笑みを見せた。
普段着慣れないスーツを着て、少しでも格好よく見えるように食事の間背筋を伸ばしていたツケが回ってきたのか背中が痛む。
「でもさ、神野くんとこういうとこ来るの初めてだよね」
「ですよね。いつもはチェーンの居酒屋ばっかですし」
「ね。安くておいしい山盛りキャベツとか齧ってるのにね。それがどう? 今日はドレス着てフレンチのフルコースだって」
秋山さんは自分の纏うドレスを見せつけるように両腕を開いて歯を見せて笑う。
光沢のあるブルーのドレスは彼女をいつもより大人っぽく演出して、僕は持ち上げたスプーンを忘れて見入ってしまった。
「ありがとね、誘ってくれて」
「いえ、いつもお世話になってるので」
「お世話なんてしたかなあ?」
「いつも愚痴聞いてもらってるじゃないですか」
「それはお互い様じゃん」
秋山さんはムースをもう一口運び、子供のように表情をほころばせる。
大学生の頃から知っていた。彼女は色々な種類の笑顔を持っている。
そしてそのどれもが素敵で、目を奪われてしまう。
「ブラック社畜同士ですもんね」
「そうそう。だから私たちはブラックフレンズ」
「来世では絶対解散しましょう」
「でも来世も一緒にキャベツ齧りたいな」
さらりとそんなことを言うから、僕は口に入れたカシスの香りを忘れる。
大学生の頃から知っていた。彼女は本当に悪い人なのだ。
「でも本当に大丈夫だったんですか。こんな夜に」
「あんまり遅くならなきゃ大丈夫って言ってたし大丈夫でしょ」
そう言った後、不意に「ふふ」と楽しそうに秋山さんは微笑んだ。
「どうしたんですか」
「いや、神野くんとはいつもこういうタイミングで一緒にいるなあって思って」
「そうでしたっけ?」
「ほら、卒業式の前日も」
そういえば、と僕は思い出す。
四年前、秋山さんが大学を卒業する前の日。
あれは雨の降りしきる夜のことだった。
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