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銀星術式
「完成された銀星術式を見せてやるのじゃ!」
そう言うとウルリカ様は、静かに魔力を集中させていく。
立ちのぼる魔力に髪はゆらゆらとなびき、周囲の景色はグニャリと歪む。まだ魔法を発動していないにもかかわらず、放たれる魔力の波動は凄まじい。
「今日の目標は、使える魔法の階梯を一段階あげることじゃったな」
強大な魔力を放ちながら、ウルリカ様は生徒達をじっと観察している。
「あの者は第一階梯……あの者は第三階梯……むうぅっ、面倒なのじゃ!」
どうやらウルリカ様は、生徒達の魔法の実力を測っていたようだ。しかし一人一人を図るのは面倒くさくなってしまったらしい。
「ええい!」と叫び両手を広げると、煌めく魔法を解き放つ。
「銀星術式、発動するのじゃ!」
そして放たれた魔法の光は、夜空に輝く星々のように煌めき、流れ星のように弧を描き広がっていく。それはまるで夜空が波となって、うねりをあげて校庭を飲み込んでいくような光景だ。
あまりにも幻想的で美しい光景を前に、ポカンと呆けてしまう生徒達。その間も駆け巡っていた魔法の光は、生徒達の胸元へと吸い込まれてしまう。すると──。
「なんだ? 体から魔力が湧きあがってきて……うわぁっ!?」
「きゃあぁっ!? 勝手に魔法が発動するわ!」
ある生徒は激しく炎を燃えあがらせ、ある生徒は凍てつく氷の柱を突き立てる。またある生徒は猛烈な暴風を巻きあげている。
突如として強力な魔法を次々と発動させる生徒達。どうやら魔法を発動させている生徒自信も、突然の出来事に驚いているようだ。
「これは……どうしてあんなに強力な魔法を……全員一斉に発動させているの……!?」
「見たところあれは第五階梯の魔法のようですな。しかし第五階梯の魔法は、本来は学生に扱えるような魔法ではありませんな。これもウルリカ様のお力なのですかな?」
「うむ! 銀星術式を全員に展開して、生徒全員を魔法媒体にしたのじゃ!」
「「「「「「「「全員を魔法媒体に!?」」」」」」」」
「見たところ第五階梯の魔法を使える者は一人もおらんかったのじゃ。じゃから全員まとめて第五階梯の魔法を使えるようにしたのじゃ。これで今日の目標は全員達成じゃな!」
とんでもない発言を繰り返すウルリカ様に、クリスティーナもノイマン学長も、下級クラスのクラスメイト達も空いた口が塞がらない。そんな中ウルリカ様だけは、満足そうに大きく頷いている。
「み……認めない……こんなものは認められない……」
現実味のなさすぎる光景を前に、クリスティーナは動揺のあまりワナワナと肩を震わせている。かと思いきやキッとウルリカ様を睨みつける。とその時──。
「わあぁぁっ! 止まらないーっ!!」
「なに……熱っ!?」
クリスティーナのすぐ後ろを、生徒の発動させた炎魔法が通りすぎたのだ。ギリギリのところで躱したクリスティーナ。しかしなにやら背後から、チリチリと黒い煙が立ちのぼっている。
「熱っ! 熱っ! 熱ぅっ!!」
「大変ですわ! お姉様のお尻に火がついてしまいましたの!」
激しく燃える炎魔法の熱で、クリスティーナのお尻はチリチリと燃えてしまっている。
慌てたシャルルはとっさに、近くで水魔法を発動させていた女子生徒へと声をかける。
「そこの水魔法を使っている者! クリスティーナ様のお尻の火を消してくれ!」
「そんなこと言われても! こんなに強力な水魔法、使いこなせるわけない……きゃあぁっ!!」
「熱っ! 熱っ! 熱あぶぶぶぶ……」
女子生徒の放った凄まじい勢いの水魔法に、クリスティーナは一瞬で飲み込まれてしまう。大量の水にまとわりつかれて、今にも溺れてしまいそうだ。
慌てたオリヴィアはとっさに、近くで風魔法を炸裂させていた男子生徒へと声をかける。
「風魔法さん! クリスティーナ様の周りの水を吹き飛ばしてください!」
「そんなこと言われても! こんなに強力な風魔法、操れるわけないだろおぉぉーっ!!」
「あぶぶぶふゃ! ぶひゃっ! ぶひゃぁっ!?」
男子生徒の放った猛烈な風魔法を浴びて、クリスティーナは全身ボロボロのズタズタになってしまう。
「はぁ……はぁ……分かったから……もうやめて……」
「おいっ、クリスティーナ様を見ろよ!」
「うおぉっ……色っぽいぜ……!」
ボロボロの恰好で地面に横たわるクリスティーナを見て、男子生徒達は大興奮だ。第五階梯魔法の吹き荒れる最中だと言うのに、すっかりクリスティーナに目を奪われている。
というのもボロボロに破れた服のあちらこちらから、クリスティーナの白い肌が大胆に覗いているのである。思春期の男子生徒が興奮してしまうのも無理はない。
「ちょっと男子! こんな時に下品すぎるわ!!」
「そうよそうよ! 下品な男子なんて懲らしめてやりましょう!」
「ちょっと待った! 杖をこっちに向けるな──ぐあぁぁっ!?」
「女子達が魔法をぶつけてきやがるぞ! 俺達も対抗するしかねえ!!」
色気たっぷりのクリスティーナにすっかり夢中な男子達と、それを懲らしめようとする女子達。両者の間を次々と、強力な第五階梯魔法が飛び交っている。せっかくの特別授業は、もはや完全に収拾のつかない状態だ。
「はぁ……はぁ……今日の授業は……お終……い……」
「そうなのかの? それは残念じゃ……」
「もう……ダメ……」
そう言い残すと、ガックリと意識を失ってしまうクリスティーナ。
こうしてクリスティーナによる魔法の特別授業は、大混乱に包まれながら幕を閉じたのだった。
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