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国王と女王の雑談
月明りに映えるロームルス城。
夜の静寂に包まれる中、ゼノン王は書斎にこもり考え事をしていた。
「ふむ……」
フカフカの豪華なソファにゆったりと腰かけるゼノン王。黙々と考え事をしていると、一人の女性が書斎を訪れる。
「あなた、まだ起きていたのね」
「……ヴィクトリアか」
ゼノン王の妻にして、ロムルス王国の女王ヴィクトリアだ。
「ちょうどいいところに来たな、お前に礼を言っておきたかったんだ」
「お礼? なにかしら?」
「お前の提案のおかげで、クリスティーナの特別授業はうまくいったようだ。あらためて礼を言いたくてな」
「ふふふっ、お礼なんていらないわよ」
艶のある白い寝間着を引きずりながら、ヴィクトリア女王はゼノン王の向かい側のソファに腰かける。足を組み斜めに腰かける姿は、しっとりした色気に満ちている。
「今までクリスティーナは自主的に外出などしなかっただろう? しかし今日は早朝から、ロームルス学園へと出かけていたらしい。どうやら下級クラスの生徒に会いに行っていたようだ」
ゼノン王の話を聞いて、ヴィクトリア女王は「あらっ」と声をあげて驚く。
「特別授業の影響だろうな、喜ばしいことだ」
「驚きだわ……あの子が自分から外に出るだなんて……」
「俺も驚いた……子供の頃の誘拐未遂事件のせいで、クリスティーナは心に大きな傷を負っている。人を信じられなくなり、引きこもって魔法の研究にのめり込んでいた。そのクリスティーナが自分から人に会いに行くとは……」
「そういえば魔法の研究にのめり込むようになったのは、誘拐未遂の時に助けてくれた魔術師への憧れからだったわね。クリスティーナにとってあの事件は、本当に大きな出来事だったのね……」
「魔術師か……」
魔術師と聞いてムッと顔をしかめるゼノン王。顔をしかめたのは一瞬だったにもかかわらず、ヴィクトリア女王はその表情を見逃さない。
「クリスティーナを助けてくれた魔術師……ノイマン学長には感謝してもしきれないわね。だからあんまりノイマン学長とケンカをしちゃダメよ?」
「待て待て、俺はケンカなどしていないだろう……」
クスクスと笑いながら「そうかしら?」と首を傾げて見せるヴィクトリア女王。どうやら王家と学園の仲の悪さを知ったうえで、ゼノン王をからかっているようだ。
「以前は会うたびにピリピリと言い争っていたじゃない? でもそういえば最近は、ノイマン学長と会ってもケンカをしなくなったわね?」
「いやだから、俺はケンカなどしてない……」
「やっぱりウルリカちゃんのおかげかしらね? 二人ともウルリカちゃんの前だとペコペコしっぱなしだもの。賢者様も国王様も、可愛い魔王様には敵わないっていうことね」
「くうぅ……」
「ふふふっ」
静かな書斎に響く、ゼノン王のうめき声とヴィクトリア女王の笑い声。
こうして、ロームルス城の夜は更けていく。
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