夕暮の懺悔

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夕暮の懺悔

 戦いから一夜明けて、夕暮れ時のロームルス城。  ゼノン王の書斎には、四人の王族が集まっていた。ゼノン王、ヴィクトリア女王、エリザベス、そしてシャルロットである。 「──そこで私達は、オニマルという強力な魔物に襲われたんだ。スカーレットとカイウスは、私を庇って大怪我を負ってしまった……」  静かな書斎に、エリザベスの声だけが聞こえる。  パラテノ森林での出来事を、ゼノン王とヴィクトリア女王に報告しているのだ。 「私もオニマルに斬られるところだった。その時、ウルリカという少女に助けられたのだ」  話を続けながら、エリザベスはグッとこぶしを握りしめる。戦いの中での苦い記憶を思い出しているのである。 「ウルリカに助けてもらっていなければ、私達は全滅していただろう……。それだけではない。ロームルス学園での戦いも、シャルロットの指揮がなければ敗北していたかもしれない……」  話しながら、だんだんと顔を俯けていくエリザベス。苦い表情を浮かべながら、絞り出すように話を続ける。 「私は愚かだった……自分の力を過信していた……今回の失態は全て、王族であり聖騎士筆頭でもある私の責任だ。だから父上、罰するのならばどうか私だけを──」 「もういい……話は分かった……」  威圧するような低い声。鋭く光る険しい視線。ゼノン王のあまりの迫力に、エリザベスはビクリと肩を震わせる。  縮こまるエリザベスを見ながら、ゼノン王は大きくため息をつく。 「はぁ……確か以前も、同じような報告を聞かされたな……」  ゼノン王から目線を向けられて、シャルロットは「うっ」と顔を背けてしまう。ロームルス学園への入学試験、その後の夜を思い出して、いたたまれない気持ちになっているのだ。 「エリザベスもシャルロットも、こういうところは似ているのだな……はぁ……」  再び大きくため息をつくゼノン王。 「さてエリザベスよ、本来ならば俺から叱り飛ばしたうえで、厳罰に処すところだ。しかし今回は、シャルロットが代わりに叱ってくれたそうだな」 「はい……何度も頬をぶたれました……。今までに敵から受けた、どんな攻撃よりも痛かった……」  エリザベスはそっと両頬をおさえる。シャルロットにぶたれた頬は、未だに赤く腫れあがったままだ。 「だろうな……というわけで、俺からお前を叱り飛ばすことはしない。ついでに厳罰も無しだ」 「はい、罰は甘んじて受ける所存で……えっ、厳罰も無し? どういうことですか!?」 「今回の失態は最初から分かっていたことだからな、お前を罰するつもりも最初からなかった」 「最初から分かっていた? 父上、それはどういう……?」  キョトンと首を傾げるエリザベス。その疑問に答えることなく、ゼノン王は話を続ける。 「とにかく厳罰は無しだ……ただし!」  語気を強めたゼノン王の声で、書斎の空気はビリビリと震える。喉が詰まりそうな緊張感だ。 「くだらぬ傲慢さと自尊心で、お前は部下である騎士と守るべき民を危険にさらしたのだ! そのことを決して忘れるな! そして、叱ってくれたシャルロットに心から感謝しろ」 「はい……父上……」 「それと、ウルリカに救ってもらった恩は一生忘れるなよ。救われた事実に最大限の感謝をし、もっと己を磨くことだ」 「もちろんです!」 「よし、俺からの話は以上だ」  話を終え、「ふぅ」と息を吐くゼノン王。緊張の糸は切れ、執務室はすっかり落ちついた雰囲気だ。  そんな中、ヴィクトリア女王は勢いよく立ちあがり、エリザベスとシャルロットを抱きしめる。 「は……母上?」 「お母様? どうしましたの?」  戸惑う二人の王女を、ヴィクトリア女王は力いっぱい抱きしめる。肩を震わせながら、これ以上ないほど力を込めて、二人の娘をギュッと抱きしめ続ける。 「エリザベス……あなたが無事で本当によかったわ……。シャルロット……元気に帰ってきてくれて、本当にありがとう」 「母上っ……心配をかけて、ごめんなさい……お母さん……」 「うぅ……お母さん……」  涙を流しながら、ギュッと抱きしめあう母と娘。  その様子を見ながら、ゼノン王はゆっくりと立ちあがる。 「さて、あとはヴィクトリアに任せるか……」  そしてゼノン王は、そっと書斎をあとにするのだった。
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