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深夜の執務室 その三
深夜。
吸血鬼もスヤスヤ寝息を立てる時刻。
荒れはてたゼノン国王の執務室に、うっすらと明かりが灯っていた。
ボロボロのソファに腰かけているのは、ゼノン王とルードルフの二人。
酒をあおりながら、ゆったりと会話をしている。
「こうして夜に飲むのも、ずいぶんと久しぶりですね」
「最近は魔物襲撃の対応で、なにかと忙しかったからな」
「いろいろと難儀されていましたね……しかし、落ちつくべきところに落ちついてよかったですよ」
「俺の執務室はまったく落ちついていないがな……」
ヒュウヒュウと隙間風の入る執務室を見て、ゼノン王はげんなりとうなだれてしまう。
「しかしまあ、俺の執務室がボロボロになるくらい安いものだな。なにしろ一人の被害も出なかったのだ。全てはウルリカのおかげだな」
「またまた、ご冗談を……」
「ん? 冗談?」
「先を読み、策を練り、そして魔王すら動かしてみせたのは、他でもない陛下御自身ではありませんか。賢王の名は伊達ではありませんね」
「そんな大したことはしていない、ただ友達に頼みごとをしただけだ」
「フフッ……魔王と友達になられた時は驚きましたが……ここまでの“利”を見越していたのだとしたら……」
「よせ、そこまで俺は打算的な人間ではない」
静かな執務室に、カランッとグラスの鳴る音が響く。
「ところで陛下、今回も吸血鬼を捕らえたそうですね?」
「ああ、早朝には王都を出発させ、監獄まで移送する。そこからは厳しい拷問だ」
「拷問ですか……なにか情報を聞き出すのですか?」
「ウルリカいわく、今回の吸血鬼も『あのお方』という発言をしていたそうだ」
「なるほど、その情報を聞き出すわけですね。それにしても、あのお方ですか……まだまだ予断を許さない状況のようですね」
「その通りだな、しかしその前に……」
そう言うとゼノン王は、ゴソゴソと紙の束をとり出す。両手をいっぱいにするほどの、大量の紙の束だ。
「それは?」
「王都中のおかし屋から、大量の請求書が届いたのだ……」
「あぁ……」と呆れた声をあげるルードルフ。一方のゼノン王は、顔を青ざめさせながら、請求書をじっと見ている。
「あー……大臣よ、この請求書は国庫から──」
「もちろん、陛下の私財できちんと支払ってくださいね」
「ぐうぅっ……ルードルフめ……」
執務室に響く、哀れなゼノン王の声。
こうして、ロームルス城の夜は更けていく。
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