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魔王と少女達の日常?
朝日の眩しい午前のひと時。シャルロットは一人、ロームルス城の敷地内を歩いていた。
気持ちのいい快晴の朝にもかかわらず、足どりはトボトボと重たい。
「はぁ……困りましたわ……」
深いため息をつきながら、後ろを振り返るシャルロット。
その目に映るのは、美しい朝日とは対照的な、むさ苦しい男の集団だ。武骨な鎧に身を包んだ、王国騎士団の男達である。
「あの……少しよろしいかしら?」
「「「「「はい! なんでしょうか、シャルロット様!!」」」」」
ビシィッと背筋を正して、男達は一斉に返事をする。
一糸乱れぬその動きは、気味の悪さすら感じさせるほどだ。
「あなた達は……一体なにをしていますの?」
「「「「「我らの女神様を、全力でお守りしているのであります!」」」」」
キラキラと輝く目で、シャルロットを見つめる男達。
ロームルス学園の戦いを経て、勝利の女神シャルロットは、騎士団の男達から大人気になってしまっているのである。
「ワタクシ、護衛なんて頼んでいませんわよ?」
「「「「「はい! 自主的にお守りしているのであります!!」」」」」
「気持ちは嬉しいですわ、でもこんなに大勢の護衛は不要ですの」
「「「「「いいえ! むしろ少ないくらいです!!」」」」」
一歩も引かない男達、むしろグイグイとシャルロットへにじり寄っていく。
女神を守る正義の騎士団のつもりなのか、しかしシャルロットからしてみれば、ゾロゾロとうっとうしい珍集団でしかない。
「はぁ」とため息をついて、シャルロットは“あること”を指摘する。
「ところで、あなた達の本来のお仕事はどうしましたの?」
「「「「「……」」」」」
「……あなた達の本来のお仕事は?」
「「「「「……」」」」」
シャルロットの指摘を受けて、先程まで威勢のよかった男達は、一斉に黙り込んでしまう。
その様子を見たシャルロットの目は、キリキリと吊りあがっていく。
「……自分達のお仕事は、そっちのけにしていますのね?」
ギクリッと肩を震わせる男達。そして──。
「ワタクシのことは放っておいて! さっさとお仕事に戻りなさーい!!」
「「「「「ヒイィッ! 申し訳ございません!!」」」」」
平和なロームルス城に響き渡る、シャルロットの怒りの叫び。
突如として落ちた女神の雷に、男達はビビりながら散っていく。
そんな中一人の騎士が、諦めずにシャルロットへと食い下がる。
「し、しかしっ……女神様の護衛は……?」
「護衛!? あぁ……そうですわね……」
ギロリッと騎士を睨みつけるシャルロット。
少しの間じっと考え事をすると、なにかを閃いてポンッと手を叩く。
「ではあなた、一つ伝言をお願いしますの。ワタクシの──」
そう言って、ニコリと笑うシャルロットなのであった。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
眩い朝日に照らされる、ロームルスの城下町。
燦々と輝く太陽の下、ベッポは一人で大通りを歩いていた。
「急に実家から呼ばれるなんて……なにかあったのか?」
一通の手紙を握りしめ、不安そうな表情で歩き続けるベッポ。
実家からの呼び出しを受け、商会の営む店へと向かっているのだ。
大通りから角を曲がり、間もなく店へ到着というところで、ベッポはピタリと足を止める。
「な……なんだこれ……?」
ポカーンと口を開け、その場に固まってしまうベッポ。視線の先には──。
「魔物避け爆弾を売ってくれ! あるだけ頼む!」
「私も魔物避け爆弾を買うわ! とりあえず三十個お願い!」
「俺は魔物混乱爆弾を買いたい! この金で買える分、全部売ってくれ!」
店の前を埋め尽くす、大勢の人々。
その誰もが、商会で扱っている“臭い商品”を求めて、やいのやいのと騒いでいるのである。
かつてない異常事態を前に、ベッポは思考停止で固まったままだ。そんなベッポの元へ、一人の男が走って来る。
「ベッポお坊ちゃーん! 待ってましたー!」
「ア……アントニオ……か……?」
「はいっ、アントニオでございます! ベッポお坊ちゃん!」
ベッポの前に現れたのは、アントニオと名乗る小太りの男である。ベッポの父親から店の経営を任されている商人の男だ。
アントニオに話しかけられ、放心状態だったベッポはハッと我に返る。
「アントニオ! これは一体なんの騒ぎだ!?」
「見て分かるでしょう、全員お客様ですよ! 先日のロームルス学園での戦いで、店の商品が大活躍したのでしょう? その噂が広まって、店は大盛況なんです!!」
嬉しそうに話をするアントニオ。全身汗でビショビショになりながら、両手を広げて大喜びだ。
一方のベッポは「いやいやいや」と疑問を口にする。
「いくら大活躍したからって、あんな臭い商品は誰も買わないだろ!」
「それがですね! 商品を買ってくれているのは、みんな農家の方々なのですよ!」
「農家!? うちの商品は冒険者向けだろ?」
「どうやらうちの商品、農家にとっては最高の魔物避けみたいですよ! 畑から離れた場所に撒けば、臭いは気にならない。臭いのせいで安価ですから、安く大量に買える。いいこと尽くしだそうです!!」
「マ……マジかよ……」
思いもよらぬ需要の増加に、ベッポは信じられないと言った様子だ。
「ただ一つ問題がございまして、私一人では店を回せないのです。ベッポお坊ちゃんには現場の指揮をお願いしたく、急きょお呼び出しをさせてもらったのです」
「現場の指揮って……父はどうしたんだ?」
「お父様は……その……旅行に行っておられます……」
「はぁっ!? こんな時に旅行だぁ?」
自分勝手な父親の不在を知り、ガックリと膝をつくベッポ。
そうして少し落ち込んだあと、パンッと頬を叩いて勢いよく顔をあげる。
「分かった! 現場の指揮は俺が執る!!」
「ありがとうございます! ベッポお坊ちゃん!!」
「あぁ、その前にアントニオ、お前に一つ伝言をお願いしたい。俺の──」
そう言って、ニヤリと笑うベッポなのであった。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
ポカポカ陽気のお昼時。
オリヴィア、ナターシャ、ヘンリー、シャルルの四人は、とある喫茶店に集まっていた。
「もぐもぐ……シャルロット様は大変そうです。王族としてやることも多いのに、騎士団の方々につきまとわれているそうで……」
「ベッポの実家は大繁盛らしいな! 王都中の噂になっている! もぐもぐ……」
「シャルロット様もベッポも、ボク達と違って忙しそうですね……もぐもぐ……。ところでウルリカさんは、今日はどうしているのですかね?」
「ウルリカ様はジュウベエ様と遊びに行きました。朝早くからお二人で、どこかへ行ってしまいましたよ……もぐもぐ……」
仲よくケーキを食べながら、この場にいない三人の話をしている。
シャルロットやベッポと違い、四人は暇を持て余しているのだ。
「みんな大変そうだな、自分達も力になれればよいのだが……ズズズ……」
「ズズズ……同じクラスの仲間として、手伝えることは手伝いたいですね」
「そうですね……ウルリカ様は遊んでいるだけですけどね……ズズズ……」
シャルル、ヘンリー、オリヴィアの三人は、ゆったりと紅茶を飲みながらクラスメイトの心配を口にする。
そんな中、「はいっ」と勢いよく手をあげるナターシャ。
「でしたら午後から、お手伝いに行ってみませんか?」
「それはいいですねサーシャ、私も賛成です!」
「自分も賛成だ! ナターシャ嬢よ、素晴らしい考えだな!」
「非常によい意見ですね、もちろんボクも賛成ですよ!」
ナターシャの提案に、他の三人も大賛成だ。
誰の所へ手伝いに行こうか、ワイワイと話しあう四人。そこへ別々の方向から、二人の男が走って来る。
「ナターシャ様! オリヴィア様! ようやく見つけました!」
「ヘンリーさん! シャルルさん! 探しましたよー!」
走ってきたのは、王国騎士団の男と、商人のアントニオである。
二人ともゼェゼェと息を切らせながら、それぞれ預かった伝言を口にする。
「ゼェ……ゼェ……シャルロット様から……伝言です……今日一日……シャルロット様の……護衛についてほしい……と……」
「ゼェ……ゼェ……ベッポお坊ちゃんから……伝言です……今日一日……お店の手伝いに……来てほしい……と……」
言い終えると同時に、酸欠で意識を失ってしまう二人。
伝言を聞いた四人は、顔を見あわせて一斉に立ちあがる。
「行きましょう、リヴィ!」
「もちろんです、サーシャ!」
「急ぐぞヘンリー!」
「もちろんですよ、シャルル!」
こうして、仲間思いな四人は、急ぎ友達の元へと駆けつけるのだった。
倒れた男二人を、その場に放置して……。
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