死闘(ケンカ)

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死闘(ケンカ)

 ここは魔王城。  魔界の中心に建つ、巨大な城である。  本来はウルリカ様がいるはずの、今はだだっ広いだけの謁見の間に、大量の魔法陣が浮かびあがっていた。  重なりあう魔法陣は光の柱となり、謁見の間を明るく照らす。そして──。  ──ズズンッ!!──。  激しい衝撃とともに、光の柱は塵となって消えていく。  残ったのは白い光の靄と、舞いあがるホコリだけ。その中を、黒い大きな影が立ちあがる。 「ここは……魔界へ帰ってきたのか」  魔界を統べる大公爵の一人、悪鬼ジュウベエである。  ウルリカ様の時空間魔法で、人間界から魔界へ帰って来たのだ。 「クククッ……久しぶりにウルリカ様と過ごせた、やはりウルリカ様は最高だな……クククッ」  ウルリカ様との時間を思い出し、一人でニヤニヤと笑うジュウベエ。  そんなジュウベエの背筋に、氷のように冷ややかな声が突き刺さる。 「フフッ……よく戻りましたね、ジュウベエ……」  背筋を凍らせる冷たい声、コツコツと響く不気味な靴音。現れたのはタキシード姿の大悪魔、魔界の宰相ゼーファードである。  いや、現れたのはゼーファードだけではない。 「お帰りなさい、ジュウベエさん……」 「待ッテイタゾ、ジュウベエヨ……」 「ずいぶんと遅かったじゃなぁい……」 「アタイ待ちくたびれちゃったよ……」  暗闇を割いて現れる、五つの強大な魔力。ジュウベエを除いた五体の大侯爵である。  震えるほどの殺気を放ちながら、大公達はジュウベエに迫っていく。 「な……なぜ全員集まっている? なぜ俺は殺気を向けられている!?」 「愚問ダナ……理由ナド分カリキッテイルダロウ……」 「ジュウベエ一人で人間界へ行っちゃったからだよ……アタイ達を置いてけぼりにしてさ……」 「ウルリカ様と一緒にいたのですよね? もしかして、一緒に遊んでもらったりしたのでしょうか……」 「あらぁ……ウルリカ様に遊んでもらうだなんてぇ、羨ましいわぁ……」  ミシミシと悲鳴をあげる魔王城。迸る大公達の殺気は、魔王城を軋ませるほどの凄まじい圧力となっているのだ。  あまりにも異様な圧力を受けて、流石のジュウベエも冷や汗でビッショリである。 「おい待て! 落ちつけ! 俺は戦いのために呼ばれたのだぞ!!」 「それはおかしいですね……三日間も戦い続けるなんて、そんなはずありません……」 「確カニソウダ……ジュウベエノ実力ナラバ、人間界ナド半日足ラズデ滅ボセルハズ……」 「そうよねぇ……三日間も戦い続けてたはずないわよねぇ……絶対に遊んでもらっていたのよぉ……」 「アタイだってウルリカ様に遊んでもらいたかったのに……どうしてジュウベエだけ……」  垂れ流される怨嗟の言葉。渦巻くドス黒い魔力は、謁見の間をドロドロと満たしていく。  そんな中ゼーファードは、ゆっくりと口を開く。 「フフッ……ジュウベエ……」 「ゼ……ゼーファード殿?」  黒い血の涙を流しながら、ゼーファードはニッコリとほほ笑む。  そしてポソリと呟く。 「……あなたは死刑です……」 「はぁっ、死刑!? おい、ふざけるな!!」 「ふざけてなどいませんよ……罪状は、一人だけウルリカ様に呼ばれて、仲よく楽しく過ごして本当に羨ましいなこのやろおぉぉ罪だあぁぁっ!!」  恨みと辛みと妬みの感情を大爆発させるゼーファード。  暗黒の魔力を炸裂させ、ビシッとジュウベエを指差す。 「さあ! あの憎き裏切り者に、死の制裁を与えましょう!!」 「「「「死刑! 死刑! 死刑!!」」」」  響き渡る“死刑”の大合唱。  追い詰められたジュウベエは、腰の大刀へと手を伸ばす。 「くそっ……こうなったらやるしかない! 鬼の太刀、最終奥義を見せてやろう!!」  その後、ジュウベエと大公達の死闘(ケンカ)は、三日三晩続いたという。  そして三日後、そこには半壊した魔王城と、ボコボコに伸されたジュウベエが転がっていたという……。  ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡  セリフの頭にキャラクター名を入れました。  「誰が喋っているか分からない!」という方は、以下から読んでみてください。  ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡  ここは魔王城。  魔界の中心に建つ、巨大な城である。  本来はウルリカ様がいるはずの、今はだだっ広いだけの謁見の間に、大量の魔法陣が浮かびあがっていた。  重なりあう魔法陣は光の柱となり、謁見の間を明るく照らす。そして──。  ──ズズンッ!!──。  激しい衝撃とともに、光の柱は塵となって消えていく。  残ったのは白い光の靄と、舞いあがるホコリだけ。その中を、黒い大きな影が立ちあがる。 ジュウベエ「ここは……魔界へ帰ってきたのか」  魔界を統べる大公爵の一人、悪鬼ジュウベエである。  ウルリカ様の時空間魔法で、人間界から魔界へ帰って来たのだ。 ジュウベエ「クククッ……久しぶりにウルリカ様と過ごせた、やはりウルリカ様は最高だな……クククッ」  ウルリカ様との時間を思い出し、一人でニヤニヤと笑うジュウベエ。  そんなジュウベエの背筋に、氷のように冷ややかな声が突き刺さる。 ゼーファード「フフッ……よく戻りましたね、ジュウベエ……」  背筋を凍らせる冷たい声、コツコツと響く不気味な靴音。現れたのはタキシード姿の大悪魔、魔界の宰相ゼーファードである。  いや、現れたのはゼーファードだけではない。 エミリオ「お帰りなさい、ジュウベエさん……」 ドラルグ「待ッテイタゾ、ジュウベエヨ……」 ヴァーミリア「ずいぶんと遅かったじゃなぁい……」 ミーア「アタイ待ちくたびれちゃったよ……」  暗闇を割いて現れる、五つの強大な魔力。ジュウベエを除いた五体の大侯爵である。  震えるほどの殺気を放ちながら、大公達はジュウベエに迫っていく。 ジュウベエ「な……なぜ全員集まっている? なぜ俺は殺気を向けられている!?」 ドラルグ「愚問ダナ……理由ナド分カリキッテイルダロウ……」 ミーア「ジュウベエ一人で人間界へ行っちゃったからだよ……アタイ達を置いてけぼりにしてさ……」 エミリオ「ウルリカ様と一緒にいたのですよね? もしかして、一緒に遊んでもらったりしたのでしょうか……」 ヴァーミリア「あらぁ……ウルリカ様に遊んでもらうだなんてぇ、羨ましいわぁ……」  ミシミシと悲鳴をあげる魔王城。迸る大公達の殺気は、魔王城を軋ませるほどの凄まじい圧力となっているのだ。  あまりにも異様な圧力を受けて、流石のジュウベエも冷や汗でビッショリである。 ジュウベエ「おい待て! 落ちつけ! 俺は戦いのために呼ばれたのだぞ!!」 エミリオ「それはおかしいですね……三日間も戦い続けるなんて、そんなはずありません……」 ドラルグ「確カニソウダ……ジュウベエノ実力ナラバ、人間界ナド半日足ラズデ滅ボセルハズ……」 ヴァーミリア「そうよねぇ……三日間も戦い続けてたはずないわよねぇ……絶対に遊んでもらっていたのよぉ……」 ミーア「アタイだってウルリカ様に遊んでもらいたかったのに……どうしてジュウベエだけ……」  垂れ流される怨嗟の言葉。渦巻くドス黒い魔力は、謁見の間をドロドロと満たしていく。  そんな中ゼーファードは、ゆっくりと口を開く。 ゼーファード「フフッ……ジュウベエ……」 ジュウベエ「ゼ……ゼーファード殿?」  黒い血の涙を流しながら、ゼーファードはニッコリとほほ笑む。  そしてポソリと呟く。 ゼーファード「……あなたは死刑です……」 ジュウベエ「はぁっ、死刑!? おい、ふざけるな!!」 ゼーファード「ふざけてなどいませんよ……罪状は、一人だけウルリカ様に呼ばれて、仲よく楽しく過ごして本当に羨ましいなこのやろおぉぉ罪だあぁぁっ!!」  恨みと辛みと妬みの感情を大爆発させるゼーファード。  暗黒の魔力を炸裂させ、ビシッとジュウベエを指差す。 ゼーファード「さあ! あの憎き裏切り者に、死の制裁を与えましょう!!」 エミリオ、ミーア、ドラルグ、ヴァーミリア「「「「死刑! 死刑! 死刑!!」」」」  響き渡る“死刑”の大合唱。  追い詰められたジュウベエは、腰の大刀へと手を伸ばす。 ジュウベエ「くそっ……こうなったらやるしかない! 鬼の太刀、最終奥義を見せてやろう!!」  その後、ジュウベエと大公達の死闘(ケンカ)は、三日三晩続いたという。  そして三日後、そこには半壊した魔王城と、ボコボコに伸されたジュウベエが転がっていたという……。
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